2017年05月30日

夜明け告げるルーのうた

[70点]@TOHOシネマズ新宿

 「夜は短し歩けよ乙女」に続く、湯浅政明監督の新作。

 面白かった、のですが。
 湯浅監督のポテンシャルを全部出した、というよりは、かの作風に、一般性のある背景や物語が乗るか? という壮大な実験作です。その答えは、「乗る」であり、喜ばしい作品でした。

 ただ、それゆえに犠牲になった部分も大きい気がします。湯浅監督らしいダイナミックなアニメーションが弾けるのは「ダンスシーン」なわけですが、「そこだけは弾けていいよという許可を得たので弾けている」感がハンパないのです。
 それはなんか、違うだろ、と。ブレーキかかってるんじゃないか、と。アバンタイトルに見せ場がなくて説明的で退屈で入り込めない、って、湯浅作品の構成としてはありえんミステイクではないかと。
 もう少し、こう、やっぱり言葉で表現しづらいんだけど、シームレスというか、ストーリーや緩急やアニメーションの触感を変えても一貫してダイナミックさを見せつける、って路線は譲ってほしくなかった。「夜は短し歩けよ乙女」はそれができていたのです。

 また、「一般性を意識した」と考えたとき、やっぱあの予告編はまずかったんではないでしょうか。湯浅政明のネームバリューを知らない一般層をかえって遠ざけた印象です。
 「見た目にポニョ」で二番煎じに見えてしまうのがつらい。コンセプトは全然違うのに。
 それに、「田舎の若者→閉塞感からの脱却」をメインプロットと思わせて客を呼ぶのは、今となっては「それだけで陳腐」のイメージがあり、難しいように思います。

 実際には、予告編ではほぼ出さなかった「常世思想」が物語の背景にあり、世代の連なりつまりは「親子愛」を泣かせどころにしているわけで。さまざまな親子の形と、その相互理解や行き違いが重層的に描かれ収束していく流れはお見事でした。
 ワン魚とかルーのとーちゃんとか、「子供に見せたい」タイプのアニメーションも多かったので、もっと「親子押し」で作りこみ&宣伝してくれたらよかったのに、と思うことしきり。

 ところで、とーちゃんってアレ、「最初からずっと」あそこに勤めてた、って認識で合ってるよね?



湯浅政明大全 Sketchbook for Animation Projects -
湯浅政明大全 Sketchbook for Animation Projects
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2017年05月27日

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

[80点]@ヒューマントラストシネマ有楽町

 このタイトルでイタリア映画。「イタリア初のスーパーヒーロー映画」を謳われ、現地で大ヒットした日本産ロボットアニメ「鋼鉄ジーグ」をモチーフにしている作品。



 マジ泣きした。
 男がヒーローになる、その瞬間に。


 起きるイベントは、クッソ陳腐なのに。
 気の利いた言葉などなく、説明するのも馬鹿馬鹿しいほどの顛末なのに。
 ハリウッドがいくらヒーローのビギニングものを並べたところで、決して至ることのない境地。
 底流にある、アメリカも日本も比べようもないほどの、今の南欧の窮状。若者はもがいてももがいても這い上がれないプレッシャーの下に生きていて、とりわけド底辺の小心なゴロツキ、「ヒーローという立場があること」すら知らず信じずに生きてきた男が、ヒーローになるまでの物語。凡百のヒーローとは、落差が違いすぎる。
 「彼らの理解できる範疇でのヒーロー像」は、実はちゃんと存在していて、多くの者が無邪気にそれを目指している。しかし本作の悪役は、それに近づこうともがいて、手段を見失い、堕ちていくのである。
 真のヒーローの居場所はもっと高い。かつてイタリアに旋風を巻き起こしヒーローの代名詞となった「鋼鉄ジーグ」は、そんな範疇に収まってはいない!


 断言してもいい。
 本作の主人公エンツォは、世界ヒーロー史上、「ヒーローになる前のメンタリティが最も低い」キャラクターである。
 物語の開始時点の彼は、善も正義も、愛も勇気も、情も絆も、希望も野心も、祈りも怒りも、およそヒーローと結びつくものをかけらも持ち合わせていない。
本当に何もなく、あらゆるものから物理的にも精神的にも逃げ続けて生きている。

 そんな男が、ヒーローになる。
 そんな男でも、ヒーローになれるのだ。


 ならばなんとする。君は何をする。
 せめて刮目して見よ。男がヒーローになるその瞬間を!



スーパーロボット超合金 鋼鉄ジーグ 約130mm ABS&PVC&ダイキャスト製 塗装済み可動フィギュア -
スーパーロボット超合金 鋼鉄ジーグ 約130mm ABS&PVC&ダイキャスト製 塗装済み可動フィギュア



 せっかく気合い入った文章が書けたのでここで締めたいところだけど、少し追記しておきたいことが。
 冒頭にどーんと漢字入りのタイトルが出てくるので、へぇイタリア映画でもディズニーみたいに日本語訳でタイトル入れるようになったんだー、と思ってたら、パンフレット読んで驚いた。

 「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」これ、邦題じゃないのな。原題。イタリアでも、正式なタイトルが日本語なんですって。どんだけ愛されてるんだ鋼鉄ジーグ。

 それだけの愛に満ちてるのに、本場日本での反応が悪いのは残念。
 あのタイトルバック見るのと、エンディングのカバー曲を聴くだけでも日本に輸入された価値があると思うので、マーベル辺りの、悩むヒーローに食傷気味の方は是非。
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2017年05月25日

BLAME!

[80点]@新宿ピカデリー

 原作二瓶勉・製作ポリゴンピクチュアズの、「シドニアの騎士」の組み合わせによる3Dアニメーション新作。

 見終わって最初の率直な感想はこう!
 「これは世界で売れる」
 作っては作ってはクソを積み上げてきた「3Dジャパニメーション」が、やっと「売れる型」かつ「日本ならでは」に到達しました。寿ぐべきです。
 「レンダリングの都合上」3人か4人しか登場人物がいないのに、世界の運命をブン回す悪習はもはやありません。本作など、最大の難点が、「キャラが余っていて」効果的なキャラ配置ができず、ラスボス登場からの流れにもたつきを感じる点、ときてるんですから。

 シドニアも海外評価高いようですが、あちらはジャパニメーション文脈の比率が高いので、こちらの方が絶対いける。何しろ、西部劇の時代から紡がれる王道の物語構造(「マッドマックス」も同パターン)を、「男の背中」で締めて見せつけるこの説得力!
 さらには、物語空間が狭いにもかかわらず、3D背景にもキャラ構築にも奥行きがあり、さらなる広がりを感じるので、ダークな色彩なのになんか画面やキャラの動きを見てるだけでワクワク感があるんですよ。これはもう、絶対シリーズ化すべきです。

 なお、NETFLIX の同時配信で、映画館での公開は2週間限定だそうです。NETFLIX が、かなりの製作費を突っ込みつつもわりと自由に作品を作らせてくれるのはいい時代なのでしょうが、それでもこれは映画館で見るべき作品と思います。うまい棲み分けができてゆけばいいのですが……。



「劇場版 シドニアの騎士」Blu-ray -
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2017年05月24日

メッセージ

[55点]@ユナイテッドシネマ豊洲

 秋に「ブレードランナー2049」が控えるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の、ファーストコンタクトものSF。異星人のUFOが「ばかうけ」に似てるというのでちょっと話題に。
 映像はとてもよいデキで、この映像センスでブレードランナーが見られるなら、それはすごく楽しみだ、というべきなんですが、本作は内容的にな。そもそも映像化に向く原作だったか、という点でな……。

 あの手この手で苦心して「言語」で異星人とコミュニケーションしようと試みる前半部分は、ヒットさせづらそうな地味な絵面ながらも、個人的にはすごくwktkしながら見ておったのですが、後半で明かされる「仕掛けられたトリック」により、話は確実にヒット作的な方向に切り替わりつつも前半部とあまりに乖離してしまいます。というか、そこまでの苦労話を粉々にぶっ壊します。「いかに対話するか」の物語だったはずのものがなぜそのように変容するのか、正気を疑うレベル。
 うん、まぁ、コミュニケーションは大事だ、「それ」すらも、コミュニケーションに成功しなければ伝えられなかったわけだから……。

 以下ネタバレ注意。



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2017年05月15日

スプリット

[65点]@ユナイテッドシネマ豊洲

 M・ナイト・シャマラン監督の新作は、多重人格者が女子高生を誘拐する、という内容のシチュエーションホラー、なんですが……。
 あー……うーん……そーかぁ……。


 いやさ、まさかシャマラン監督作品で、「続編が決まっている」ので「含みを持たせて終わる」というエンディングを見ることになろうとは夢にも思わなかったですよ……。つーか、そのクロスオーバーする旧作、オレ知らんし!
 ヒロインのケイシーちゃんも「虐待を受けていた」のは明らかなので、「ビースト同士の殺し合い」か「つがいになる」か、どちらの終わりを選択するのだろう、と思って見ていた自分としては、どちらにも至らないのは消化不良としか言いようがないです。「続編」のせいでそういう中途半端に陥ったのだとしたら、あまりにもったいない。


 とはいえ、「製作費のうち最も高額なのはジェームス・マカヴォイのギャラ」としか思えない超安い絵面ながら、最後まで目を離せない緊迫感。これも「ヴィジット」同様、安易なパターンのB級映画を、実力者が全力でぶん殴りにいった感があります。

 しかもジェームス・マカヴォイを使って、「超能力者がいかにして生まれるか」という「X-MEN」を連想せざるをえない内容を、すごく卑近な観点からやってのけるあたり職人芸なツボの押さえ方で、アメリカでヒットしたのも当然、という気がしました。



ヴィジット (字幕版) -
ヴィジット (字幕版)
posted by アッシュ at 20:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月09日

「バーフバリ」がチネチッタ他で上映

 1週間限定上映なんて馬鹿じゃねーの、とか言ってたら、「バーフバリ」がじわじわ上映拡大中です。
 チネチッタは LIVEサウンド だってさ!

 公式サイトの上映館情報。

 ホンマおもろいのでみんな見ようぜ! バーフバリ! バーフバリ!
posted by アッシュ at 16:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月02日

短評(フリーファイヤー/3月のライオン後編)


フリー・ファイヤー
[35点]
@チネチッタ
 見る直前に、実はあの駄作「ハイ・ライズ」の監督の作品と気づきました。でも、まさかチンピラがパカスカ銃撃戦するだけの内容に下手打つまい、だったらあのザラザラした質感の映像は合うんじゃないかな、と思っていたら。
 冒頭に出た「監督からのメッセージ」の言い訳がましい内容からして、手ごたえが変だったんですが。いやもう……退屈だった。
 だって、誰が誰を何の意図で撃つか、という表現がほとんどないんだもん。これ、銃撃戦て言わないよ! やたらに銃声がしてるだけだよ! パンパン音がしてる合間にみんな独り言をぐだぐだ並べてるのと何も違わないよ!
 あー、この監督の作品は二度と見ません。確実に時間の無駄。



3月のライオン -後編-
[70点]
@チネチッタ
 前編。
 いやはや今回も「対局シーン」が圧巻。今回は主人公がその立場に立つので、圧巻度合いがいや増しています。新キャラは伊勢谷友介くらいで、前編が前提にあれば「キャラが立ってない」感もなく、非常にのめり込んで見られました。
 ただ「対局」が凄いってことはつまり、大友監督は「強い孤高の男同士の勝負」にリキを入れている感じで、周辺にある「家族話」とは乖離しててバランスが悪い気はします。

 そこらへんの家族話がいまひとつピリッとしない理由は別にもあって、「中学生に見えない清原果耶」「年上に見えない有村架純」が主犯だと思います(特にあのイジメシーン、まんまチープな学園ホラーに突っ込みそうな気がしたヨ!)。神木隆之介や伊藤英明の凄みも、撮影は単に顔どアップにしてるだけ、と考えると、監督の力量と言うよりは俳優個々人の演技力、と思われ、うーん、正直まだ大友監督は信頼しきれない。
 というか、彼には変にウェットな要素のある作品を与えない方がいいのでは。升田幸三あたりのガチ勝負師を勝負師としてのみ撮るような作品の方が……、あ、そうか、この撮り方で「月下の棋士」を見てみたいかも!



 あと、映画の内容とは全然関係ないんだけど、前編でも書いたとおり、自分の目的の一つは、スピッツをカバーした、エンディングの「春の歌」でした。

 ……予告編の段階で気づいてろよって話ではあったのですが。
 これ、「愛と希望より前に響く」じゃなく「愛と希望を、より前に響く」って歌ってない? 愛と希望というものが存在して、それをもっと響かせよう、というニュアンスに変えてない?

 ふざけんなよファッキン編曲者。原曲と意味が真逆じゃネェか。ていうかその後の「愛も希望も作り始める さえぎるな」と合わなくなってるだろうが。
 愛も希望もない(あるいは、陳腐で価値がない)ところに春の歌は響いているのであって、そこでガムシャラに進んでいく詞が、まんま「将棋しかねぇんだよ」な桐山零に合致するからテーマ曲たりえてるんじゃねぇのかよ!



スーベニア - スピッツ
スーベニア - スピッツ
posted by アッシュ at 07:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする