2006年02月17日

ピーナッツ

[80点]
 ……まず最初に書いておきたいのは、本作の旗艦上映館となっている渋谷Q-AXシネマについてだ───確認するが、本作の監督とメインキャストはどういう人物かわかっているな? 「内村プロデュース」という深夜番組の主要メンバーで、作品の内容同様、もはや盛りを過ぎたおっさんたちだぞ?

 そもそも深夜番組から生まれた作品を新装こけら落しの番組に選んだ時点で、「デキはどんなでもそこそこ人は来るだろう」という貧相な志が透けて見える。にもかかわらず望外の評判でさぞやほくほくしていることだろうが───ここで問いたい。
 コレをなんでレイトショーでやらんのだ。明らかにターゲットは、仕事帰りのサラリーマンか、この時間になってやっと活動が活発になる類の人種じゃないのか? なのに19:00 が最終回だ? ふざけんなよ? わざわざ板橋まで行くハメになったじゃねぇか!


 いや、そうか、そうか、わかったぞ。
 同時期に買い付けてきた作品がR-18でえげつなくて、どうやってもレイトショー公開にしかできないに違いない。それならまぁ、しかたないな。
 どれ、レイトショーの作品はと……

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[ TAKI183 ]
グラフィティに熱中するトミーら5人は、渋谷のあばら家に巨大なグラフィティ・アートを完成させるが、それを機にバラバラに。2年後、それぞれの人生を歩んでいた5人は、あばら家が壊されることを知り、再びグラフィティを描き出す。
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 (ノ`△´)ノ ┫:・'∵:.┻┻:・'.:∵
 どっからどうみてもターゲットが中高生じゃねぇかよ!

 こんなのレイトショーでやるなよかわいそうに! 家に帰れねぇだろうが! 
 それとも何か、こーゆー作品を見る奴らは、みーんな裏通りのラブホにシケ込む連中だから関係ないとでも思ってんじゃねぇだろーな?!

 あぁもう本気でムカついた。 
 あのいろいろ新装なった文化村近辺、まだ全然行ってないんだけど、当面行く気しねぇ……と思ったら、パイナップルパン王子が新ユーロスペースだったっけ……。


 さて……(文体を戻します)作品に罪はないのです。そういうムカつきを抑え、わざわざ東武練馬まで行く価値のある逸品でした。
 イノセント・ボイスがワケわからん1行感想で転落せしめられたことによるタナボタとはいえ、映画生活でこの作品が1位になったのもうなずけるというもの。

 演技はみんな下手です。ギャグは寒いです。けれどこの物語が後から後からボディブローのように感動を呼び起こすのは、こなれていないセリフを並べながらも、丁寧にとても丁寧にエピソードを積み重ねていく点にあります。正直、映画人としての内村光良がここまでできるとは思ってなかった。脱帽です。
 野球チームの話ですから、9人分(実際は6人+α)のエピソードがあります。これが、非常に気持ちよいテンポで積み上がり集合離散していくんですなぁ。
 そして個々のエピソードが伏線となって、勘どころの試合の展開に影響を与えます。いろいろな意味で、「最後のまとめ」にとどまらない、驚くほどいい出来の試合なんですよこれが。

 「日本男児なら誰でもわかるレベル」の最低限の野球知識は必要ですが、あのピッチャー交代劇に「オォ!」と思えたら合格。野球映画は数ありますが、ろくろくボールも追えない映像が大半の中で、試合が単なる見せ場に終わらず、細かい展開にまで気を配られているとなると、本場アメリカ作品にもそうはないのではないかと。
 ───だから、この作品、朝昼ヒマな人たちに見せてもしょうがないんだよ!
 レイトショーやれよこんちくしょう!


 そして、すべてのエピソードを経て得られるものは、───
 以下ネタバレ。


 敗北です。

 内村監督は、彼ら内Pのメンバーがヒーローになんぞなれないし、なったって似合いやしないことを百も承知だったのでしょう。だから、彼らは、負けました。徹底的に。
 主人公秋吉だけがひとり勝ちな感はありますが、逆に彼のラストシーンを表向きのカタルシスとしつつ、それ以外すべて、この物語では「敗北」を描き出します。

 まず第一に、普通の物語なら「敵」に位置づけられる再開発計画側の人々に悪意がありません。金で解決するきらいがあり、ややドライではありますが、ルール違反はしません。これは野球の試合中も同じです。
 むしろルール違反をしまくるのはピーナッツ側の方で、そもそも賭け試合成立の経緯が、「賛成2/3以上で再開発推進」となった商店会の意向を、商店会長が勝手にひっくり返そうとして始めるものです。ピーナッツが再開発に反対する個々の理由は、いずれも思い出とか誇りとかいったウェットなものであり、説得力に欠けます。

 本作は、彼らが「10年前の栄光」という未練を断ち切るために試合をし、負けるべく負けて目的を達した、という物語だと理解すべきです。
 強豪とはいえ硬式専門のチームを相手に、ホームグラウンドで軟式野球。好条件を受け入れてもらいながら、彼らは負けます。ホームランを打つという約束は守られません。塁に出るという約束は守られません。
 何より、「球場がどうなったか」が提示されずに終わったのは、やはり意図的でしょうね。再開発は計画通り進行し、彼らは野球場を守れなかったのでしょう。

 「負けながらも賞賛を受けて終わり」の作品などいくらもあります。しかしそういった作品の多くは、試合には負けても、個人の領域では勝利と幸福を掴むものです。本作では、個人の領域においてさえ、誰ひとり、明確な「勝利」を得る者はありません。

 敗れた彼らに与えられるのは、「素晴らしい試合をした」ことに対する、ただひとときに限定された暖かい拍手です。勝利や思い出ではなく、それこそが、10年を超えて残る矜持の本質だったのです。


 勝ち組負け組と二極化したがる日本において、いま求められ、語られなくてはならない物語とは、「すぐれた敗北者」を描く物語なのだと、心から思えてなりません。
 そして、多くの人が勝利のオーラを纏う日本の芸能界でそれを体現できるのは、内村監督と、かの仲間たちだけなのかもしれません。
posted by アッシュ at 00:59| Comment(0) | TrackBack(3) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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ウッチャン監督・映画『ピーナッツ』観に行きました!!
Excerpt:  内村光良初監督作品[:祝:]・映画『ピーナッツ[:野球:]』観ました[:楽しい:]!!  すっごく良かったです[:拍手:]。ウッチャンは、私が思っている以上にすごい人でした[:祝:..
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Tracked: 2006-02-18 22:00

ピーナッツ
Excerpt: 落花生 皮をむいたら 落果星   内村殿、ひとまず、監督第一作おめでとう! そしてご苦労様、さらに、素敵な心温まる作品をありがとう!  ひょっとかして、みんなびっくり目ん玉丸くしてるかもし..
Weblog: 空想俳人日記
Tracked: 2006-02-19 11:44

ピーナッツ
Excerpt: 簡単に感想を言うならば、「ウッチャン、お見事!」。その一言に尽きます。期待以上の仕上がりでした。 東京から「ヴェスパ」に乗って8時間かかる場所にあり、再開発の計画に揺れている「富士沢」の商店街。..
Weblog: 日っ歩??美味しいもの、映画、子育て...の日々??
Tracked: 2006-03-02 07:16