2012年07月07日

グスコーブドリの伝記

[40点]@ワーナー・ブラザース試写室

 試写会の応募でよくある、n組2n名様って、やめてほしいよね。
 それだと、すっごく応募しにくい立場、ってのがあるんだよね。うん(泣。

 そういうわけで。
 試写会で見ました。
 試写会場入ったときはテンションMAXでした。

 僕は、記憶に残ってる人生最初のアニメ映画が「銀河鉄道の夜」なんですよ。
 実際はたぶん、ドラえもんあたりを観てると思うんだけど、記憶に残っているのは間違いなくコレ。もう、原風景。
 細野晴臣によるエンディングテーマの、ピアノからストリングスが混ざるあたり、今思い出してもぞわっとくる。
 だから本作はずっと待ってた。メチャクチャ期待してた。期待が大きすぎたというのは確かかもしれない。


 まさかこんなことになっていようとは……。
 率直な感想は、「自分の見た作品は本当にグスコーブドリの伝記だったのか?」です。もしかすると今映画館にかかってるのは全然別かもしれません。ていうか、是非そうあってほしい。
 先に書いておくと、絵はきれいです。進化してます。CGなイーハトーヴの街並みが都会過ぎるのがどうなのと思うくらいで、アニメ映画として不備は感じてません。火山局内の描写は、想像力豊かに練られていたと思います。


 さて。
 「グスコーブドリの伝記」の原作って、短い作品ですよ。少なくとも、「銀河鉄道の夜」と比べたら、何分の一かですよ。
 でも、映画の長さは同等の 108分。「短い原作をどうやって膨らませたのか」って考えるでしょふつう。まぁ、あの手この手で膨らませてるわけです、この作品。

 終盤になって恐ろしいことが起きます。
 「原作からカットされているシーンがある」のです。それも、「そこを削ったらもう『グスコーブドリの伝記』じゃないよね?」というシーンがカットされています。
 具体的に書くと、この映画の中で、ブドリは「ネリと再会」しません。
 ……ありえねーんですよ。
 そして最大のクライマックスたる「カルボナード火山の噴火」は一瞬で処理されます。
 ……ありえねーんですよ!!


 以下、宮沢賢治的ネタバレ。何も知らずに見たい人はこれ以上読まないこと。



 このトンデモな改変は、こう考えるとつじつまが合います。

 本作のブドリはデザインが青です。「銀河鉄道の夜」のジョバンニと同じですね。
 ネリは紫です。カムパネルラと同じですね。
 さて、「飢饉が起きたときに、飢えた家から女の子だけを選んで連れ去る人間」つまるところ単なる女衒の表現、演出ってどうあるべきだと思いますか? 本作では、そのシーンがなんとミステリアスでファンタジックでチョーカッコいいんです。
 最終的にブドリが身を委ねるのもこの誘拐犯です。
 ……つまり彼は「銀河鉄道」なんです。ネリが連れ去られたのは、死んだからなんです(直前のネリの描写がいかにも儚いですし)。てぐす工場の「蛾の銀河」がサザンクロスなんです。だから当然再会しない。

 ……生きてるよ! ネリは生きてるよ! 成長して親となった彼女を見て、命のつながりを見て、だからこそブドリは自分ら兄妹に起きた悲劇を繰り返すまいと覚悟を決めるんだよ! 本作には、「命を賭ける」に足る「時間の積み重ね」が決定的に不足しているよ!


 そのうえ、誘拐犯をなぜか「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」の世界裁判長にしたてます(知らない人のために書いておくと、ブドリの夢に描かれる化け物世界は、「別作品の引用」です)。
 まあ、彼は「銀河鉄道」のポジションなので、「よい人生にしましょう、思い上がるの禁止」的な教訓めいた発想じゃないかと思うのですが、小栗旬はそこで「ネリを返せ!」とわめくだけですので、教訓も何もあったものではありません。
 僕は、「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」の引用に、「尺の膨らませ」以外の意味はないと思っています。


 杉井ギサブロー監督は、「いのち」は描く気があるようですが、「しごと」「くらし」を真剣に描こうとはしていません。
 原作で描かれた、思うままにならない自然に翻弄されながら、生き、学び、働き、少しでも人々の暮らしを楽にしようと苦闘するブドリの姿は、ここにはありません。少なくともそれは、僕の思う「グスコーブドリの伝記」ではありません。

 グスコーブドリの名を借りて作られたのは、「ジョバンニが死ぬ銀河鉄道の夜」でした。劣化リメイクというか、原作レイプというか、ともかく、誰も望んでいなかったかたちだと思います。
posted by アッシュ at 11:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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