2012年09月23日

これは映画ではない

[85点]@シアターイメージフォーラム

 いったん収まったかに見えた、東京の映画館の閉館決定がまた相次いでいます。
 上野東急、浅草五館、銀座シネパトス、こたびはシアターN渋谷の訃報です(結局ヒカリエにシネコンが入るものだと思ってたのに入らなかったし、渋谷はいったいどうなるんでしょうか)。
 銀座シネパトスといえば「太陽」、シアターN渋谷といえば「ホテル・ルワンダ」が思い出されます。本作のような政治性のある作品を、思い切りよくかけてくれそうな館がどんどん減っていくのは残念です。

 逆に、シアターイメージフォーラムがそういう駆け込み寺的ポジションを得ていくのはどうなんでしょう。ここは映像作家養成が主目的のところで、公開する作品といえば採算度外視の実験作品、という印象がありますんで。混雑を一切考慮してないあの狭いロビーに、公開を望んでいた人がつめかける状況は皮肉で、違和感があります。
 ……とはいえ今の公開作品、「パレスチナのドキュメンタリー」「実在テロリストの伝記作品」「イランで政治犯となった映画監督が隠れて撮ったプロパガンダフィルム(本作)」あんたらどんだけー、……。


 というわけで。
 「月世界旅行」が朝一回になっていよいよ終わりそうだったので(こっちも泣ける出来でした! 予告編の時間に「ヒューゴ」のブルーレイを宣伝しちゃうのが正しすぎる!)、ハシゴして初日初回を見てきました。

 本作は、傑作「オフサイドガールズ」のジャファール・パナヒ監督の最新作です。……が、ある意味「作品」とは呼べません。なぜなら彼は今、政治犯として拘束された後、「20年間映画製作禁止」の判決を受けて自宅軟禁中なのです。
 それでも「撮っちゃった」映像集。
 家の中でカメラを回しつつ、ただただ、当分は実現しえない次回作の構想の話をしているだけ。なんで、「これは映画ではない」と。
 ……まぁ、もちろんそんな言い訳は効かなかったと見えまして、作品内で言及されている減刑は実現せず、この作品の共同撮影者であるドキュメンタリー映画監督のミルタマスブ氏も拘束されて、海外渡航禁止処分を食らった、と。


 だってこれ映画ですよ。
 面白いかどうかは別問題として、ていうかぶっちゃけ「面白く」はないんだけど、れっきとした創作物ですよ。
 これが映画でなかったら、「オフサイドガールズ」も映画ではないよ。

 ラストシーンが象徴的です。この作品には「偶然撮った」を装う明確なラストシーンがあるのです。絵的に本当に美しく、慄然とさせられます。
 その美しさは、オフサイドガールズのあのラストをも彷彿とさせます。
 つまり?
 オフサイドガールズで、「ワールドカップ最終予選」その日を狙って撮影したように。
 本作は、「イランの正月」その日を狙って撮ったのです。間違いありません。
 あのゴミ回収のアンちゃんを取りなすことくらい、素人役者を使い慣れたパナヒ監督にはどうということはないでしょう。


 「その日」一日に勝負をかけ、室内ですべてを完結せねばならぬ制約の中、いま何が使えて何ができるのか、どのように撮れば美しくなるのか、何が起きれば面白くなるのか、それらひっくるめて何が伝えられるのか、徹底して考えて研ぎ澄まして、おそらくはカメラテストを何度も繰り返してできた結果が、これなのだと思います。

 断続的に聞こえるサイレン。いらいらする工事の音。ベランダから見える工事のクレーン。それもこれも、すべて彼の作品の素材。
 一方的にまくし立てる女性弁護士に割り込むこともできぬパナヒ監督(イランのインテリ女性はホント強いな!)、じゃあ自作を語り始めるってぇと今度はパナヒ監督が一方的にまくしたてるのが、なんかおかしくてたまらない。
 無造作にカメラを斜め置きしたように見えて、明らかに計算された角度。失礼ながら、どっかからケイティーさん飛び出してくるんじゃねーかと思いました! 高品質なデジタルカメラと、手持ちのスマホで、ミルタマスブ氏との撮り合いっこもユーモラス。

 そして、不謹慎な物言いかもしれませんが、そうやって真摯に取り組んでいる人には、映画の神様が下りてくるのですよ。
 連日送り出されたであろう「あの映像」に衝撃を受けたことも、彼のモチベーションに寄与したことは想像に難くありません。「映像を創る」人間に、何ができるのか。
 ちなみにイランの正月は春分です。


 「創作」という行為は、この世で最も怖ろしい麻薬のひとつです。いったんその魔力にとりつかれると、もう表現することをやめられなくなってしまう。
 そんなジャンキーから、手段をあれやこれや取り上げたところで、「じゃあどうやって創ろうか」と考える。それが「創作」に手を染めた人間の悲しくもすてきな末期症状です。
 表現という行為の極北。クリエーターをめざすすべての人は、見ずに済ますことなかれ。
posted by アッシュ at 01:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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