2014年03月21日

キリク 男と女

[70点]@TOHOシネマズ日本橋

 TAAFの一環として公開され、上映に先立って高畑勲監督とミッシェル・オスロ監督の対談が行われました。めっちゃ面白かった。
 しかし、自分的にはめちゃビッグな組み合わせなのに、満席にほど遠かったのは驚きました。お高いボックスシートは、売れなかったのか売らなかったのかどっちなんだろう……。

 いろいろ興味深い話が聞けました。

○「キリクと魔女」は、そもそもフランスの国産アニメーションがヒットした前例がなかったので、地方の配給会社を通して、キャンペーンも打てずポスターもなく、小規模に公開された。ちなみに、公開同日にドリームワークスの新作の大規模公開(時期的に「プリンス・オブ・エジプト」か?)が直撃している。
 口コミで「キリクと魔女」が広まって成功したことは、「国産でもいける」という証明になった(「ベルヴィル・ランデブー」や「パリ猫ディノの夜」が続く下地ができたってことすなぁ)。

○「キリクと魔女」では、登場人物がみな裸なので、「ブラとパンツつけさせろ」という要求を跳ねのけるのに苦労したという話。英米では、子供に見せたいのに、子供に見せられない作品という烙印を押されてしまった。日本ではほぼ意図通りに公開できており、(日本公開に携わった)高畑監督には感謝している。

○「アズールとアスマール」は、アラビア語を翻訳せずそのまま流している。この手法も、「字幕を入れずに公開なんてできない!」といわれ、なかなか理解してもらえなかった。しかし、「キリクの魔女」の成功を盾に押し切り、海外展開にあたり、「字幕も吹替もしない」ことを契約条件にちゃんと入れている。
 オスロ監督曰く「人生に字幕は出て来ない」。

○「キリクと魔女」のスワヒリ語版を作ってケニアで公開したら、子供たちから「裸で生活なんてしてない、歴史的にもそんなことはありえない!」と反発を受けたそうな。数十キロ離れたところに、マサイ族が住んでるような土地だったにもかかわらず。つまるところ、「子供に文化を教えていく」という行為が重要である、という話。

○いちばん感じるものがあったのは、(ちょっと検索したらここでも語ってらっしゃることなんだけど)高畑監督がおっしゃった「受動的な感情移入」「能動的な感情移入」という話。
 「キリクと魔女」における、客観的な地下の断面図で表現される、トンネルを進むシーン。これは一般的には幼稚とされる演出で、主観的に表現するのが日米の映画の作り方。しかし、それでは観客を受け身にしてしまう。(ひとつの見方を押しつけていて)観客が自分で考える必要がない。観客を信頼していない。そういう演出ばかりでいいのか。
 「キリクと魔女」は、自分から入っていく「能動的な感情移入」ができる作品である。子供はちゃんとそれができるから、信頼すべきなのだ。

 「キリクと魔女」は絵本的だなぁと感じる作品ですが、絵本自体がつまり「能動的な感情移入」を導くために創られるメディアなのかも、と思いました。
 (あと、この話って暗に宮崎監督をちょっとディスってるよね。)


 ○オスロ監督は次回作準備中とのこと。「アズールとアスマール」寄りの作品になる、と高畑監督談。そして、オスロ監督としては初めて自国つまりフランスを描くことになるそうです。


 さて、対談後に上映された本編の方。フランスでは2012年に公開された作品とのこと、日本では初上映の由。一般公開になるかは……ちょっと微妙。
 (見てないですが)DVDスルーの「ちっちゃな大冒険」と同じ体裁で、「キリクと魔女」のサブエピソード短編を五本並べているものでした。「夜のとばりの物語」も短編連作ですし、がっつり長編がよかったなぁ。そして、「男と女」というサブタイトルなのに、いわゆる「男と女」の話は出てきません。ちょっと拍子抜けです。
 また、3D作品ですが、3Dにする価値があまりなかったのも「夜のとばりの物語」と同じ。……ていうか、3Dって上記の「主観的な表現」を強化するための技術だと思うので、あまりオスロ監督の作品には向かないように思うんですが。

 5つのエピソードのうち、最初の2つは本当におまけ的なエピソードでしたが、後半の3つは明確に、「文化とその継承」をテーマに取り、キリクは異民族と出会い、グリオ(語り部)の語る歴史と出会い、そして父の遺した音楽と出会います。特に、グリオが「語る」シーンは、映像もかけあう言葉の響きも美しく、伝統芸能に興味のある方なら一見の価値があると思います。
 自然美の美しさはむろん言うまでもなく、特に今回は、雨風の表現の甚だしさが印象的でした(なのに笛の音や子供の泣き声が通るのはどうかと思ったけど……)。

 悪役である魔女カラバが、エピソードが先に進むほどに「本来の」一面を見せていく構成もステキでした。ここをもって「女」とするなら、やっぱり「男」はキリクになるんですかね?



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posted by アッシュ at 17:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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