2014年09月23日

バルフィ! -人生に唄えば-

[80点]@TOHOシネマズシャンテ

 韓国映画は鬱でしんどいので避け気味、と書いたわけですが、なら何を見るかというと、やっぱり最近はインド映画です。
 「ロボット」以降のブームで日本に入ってきている作品にまずハズレがないですし、何より「底抜けに明るい」のが基本原則ですからね。例外の作品もいくらかありますが、それでも「見てる人を笑顔にする」意識のないインド作品を、僕は見たことがないです。

 ところで、韓国映画に「オアシス」という超傑作があります。僕のオールタイムベスト10に入ります。内容をものすごくぶっちゃけて書くと、「ヒロインが小児麻痺」の純愛映画です。何がすごいかって、この「麻痺」の演技が鬼気迫るなんてレベルじゃない。
 その障害女性に対し、家族がどうするか? 社会の対応はどうなってるか? そして若い男が存在に気づいて近づいてってどうなるか? そこらへんは(失礼な言い方かもしれませんが)韓国映画の平常運転で、結果的にものすごく切なく、救いのない、心を打つ悲しい物語が産まれるのです。

 翻ってこの作品。
 「主人公が聾唖」「ヒロインのひとりが知的障害(自閉症)」です。
 主人公は耳が聞こえず、しゃべることもほぼできない。
 ヒロインは言葉がほぼ理解できない。
 このシチュエーションでどんな作品が出来上がると思う?

 どうせお涙頂戴で……
 障害を乗り越えるけなげな姿……
 美しい思いやりの心を……
 社会福祉のありようとは何か……


 馬鹿言うな。
 インド映画だぞ。


 涙も、思いやりも、社会のありようももちろん語っているけれど、それ以前に、まず明るくて楽しくて面白いものが出てくるに決まってるじゃないか。

 主人公がしゃべれない?
 なら「チャップリンのパントマイム」で笑いを取るんだよ!
 当たり前だろ! 何がおかしい?


 聾唖に、知的障害。歌や踊りで派手にするインド流のシチュエーションを縛ってしまうこのキャラ構成で、じゃあ何をやるかって、「インド流サイレント映画」でした。

 もちろん、歌も踊りも多少はありますし、障害のないキャラは普通にしゃべりモノローグも織り込まれて物語は進みます。ラブコメディだけでなくミステリー風味も付け加えられて飽きの来ない話作り、また、紅茶で有名なダージリンを舞台にしていて緑の自然や古い町並みも目に美しく、みどころは尽きません。
 けれど、この作品の主たるはやはり、言葉がなくても感情豊かな主人公たちが、全身を使って伝えるものの豊穣さでしょう。時にドタバタ喜劇をし、時に自転車や傘の小道具を駆使し、時に単語だけのカタコトで口を震わせ……。

 そして、「手話」も駆使されます。当たり前の話だけど、手話は意思疎通の道具です。手話でケンカもしますし、取り繕いもしますし、恋の告白もします。字幕なんて野暮なものは出ません。思いが伝わればいいのです。通じればいいのです。
 これは泣ける作品です。けれど、「お涙頂戴」だと感じることはないはずです。最後に「伝わる想い」に、あなたは純粋な喜びの涙を流すであろうから。

 ピュアすぎて現実離れしているきらいはあるけれど、「物語」というものは、前向きで魅力のあるキャラクターが描かれていれば、たいがいのことは乗り越えられます。それは、障害や偏見を乗り越えることとも近しいように思えます。


 惜しむらくは、先にチャップリンを引き合いに出しましたが、この作品、オマージュによる他の映画の引用がやたら多いです。細かいカットとかも含めると、百かそこらはあるんじゃないでしょうか。
 それがウリ、みたいな話になってるけど、個人的にはちょっとやりすぎ感があります。日本のマンガとかだと、トレス疑惑が出て叩かれるレベル。


 ところで、この作品でいちばん素晴らしいと思ったのは、ラストシーン。
 僕は、時制は一本道(シーケンシャル)であることを至上と考えます。それが最も受け手に伝わりやすい描写だからです。過去回想や倒置は、何らかの効果を見越して「あえて」使うものであり、見合う効果なしに時制を切り刻んでも混乱を招くだけです。
 ところが本作は、時制をやたら切り刻みます。現在から始まって過去回想で物語を進め、終盤で現在に戻って物語を締めるのは、インド映画のお約束みたいなものですが、この作品はさらに1972年と1978年の間で物語を行き来させ、さらに現在からの回想モノローグも混ざり、慣れない序盤はとかくわかりにくい。
 6年間の細かい進展がどう起きたのかも読み取りにくく、もっとすっきりさせればいいのに……と思っていました。

 ところが、物語が現代に戻り、「ああこの『時』で物語を終えるのか……」と、思った瞬間に、別の「時」へシーンが飛びます。その「時」で終わらせるのか! という衝撃。
 それは、インド映画なら、当然あってしかるべき「時」なのですが、時間を自在に行き来した物語だからこそ、「心震えるラストシーン」としてその「時」を選び取れたのだと思うのです。



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posted by アッシュ at 02:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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