2015年03月21日

イミテーション・ゲーム -エニグマと天才数学者の秘密-

[80点]@TOHOシネマズみゆき座

 「二十世紀、最も人類に貢献した科学者をひとり挙げよ」、という質問にあなたはなんと答えるでしょう? 
 僕は文句なく、本作の主人公、アラン・チューリングだと思います。


 トーマス・エジソンが「偉人」として知られているのは、もちろん彼が優れた発明家でかつ事業家でもあることが理由ですが、それ以上に、戦前のアメリカに伝記のブームがあり、彼の立志伝が大衆に大ウケした、という点と無関係ではありません。

 そして、科学が人間の役に立つには、「理論」と「応用・実践」の二段階があります。エジソンは実践家であり、理論家ではありません。彼の前には、数世紀にわたって先人が組み立ててきた電気工学の理論があります(エジソンは、ニコラ・テスラの交流発送電の理論を理解できずに妨害しており、むしろ科学の発展の足を引っ張ったとさえいえる)。
 逆に、これまた誰もが偉人として名を知るアインシュタインは理論家です。彼の相対性理論は革新的な見地であり、その後のさまざまな研究に導入され応用されました。


 アラン・チューリングの天才性は、「すべての計算は細かい計算の繰り返しに分解できる、というプログラミング(アルゴリズム)の基礎理論」と、「細かい計算の繰り返しで自動的に答えを導き出す計算機(コンピュータ)の製作」の両方に、決定的に関与した点にあります。(それも、10年足らずのうちに!) 
 チューリングがいなければ、おそらくあなたはこの文章を読んでいません。それくらい、コンピュータの進化・発展に道筋を与えた人物なのです。
 そして、本作の劇中で語られるとおり、彼の製作した暗号解読機がなければ、第二次大戦はもっと長引き泥沼な結末を迎えたはずで、平和に復したのがいつだったかさえ怪しいのです。
 (逆に、戦時中なればこそ、彼は莫大な予算を得て研究できたのでは? という点にも注意したいところですが。)

 しかし、そんな彼の功績は、軍事機密であったため数十年にわたって秘匿されました。世界を大きく変えたにもかかわらず、チューリングの世界的な知名度はおそろしく低いのは、それが大きな理由です。
 「コンピュータが有用である」と世間的に認知されたのが近年なので、IF で語りにくくもありますが、彼の功績が適切に広められていれば、エジソンが裸足で逃げ出すくらいの偉人として世に知られていたんではないかなぁ、と思えてなりません。

 ……というわけで、コンピュータが人間の生活に不可欠になった現代こその、本作なのです。
 ドラマのシャーロック・ホームズで名を挙げたベネディクト・カンバーバッチが、その知的な演技力を遺憾なく発揮して演じるアラン・チューリングの唯我独尊で合理主義な天才っぷりは、お見事というより他ありません(彼はホーキング博士も演じたことがあるそうな……)。
 本作の彼の熱演が、チューリングの新たな伝記として世に広まり、再評価されることを期待します。



 ……だからね、がんばってくれたタレ目な子役さんとかには申し訳ないんだけど、彼がゲイだった話とか、それに基づく「彼の愛した対象」を云々するサスペンスっぽい戦後の展開(ゲイを理由に逮捕されたのは史実だけども……)とか、まったくもってどうでもよくって、自分にとっては、

 「人類史上初のコンピュータによる情報戦」
 の緻密な描写にヒリヒリしながら、

 「再帰計算してるぅぅ! うぉぉぉぉぉ!」
 と興奮を禁じ得ない、超オススメの大傑作
なのです。

 ……あまりに理系な感覚なんで、全然伝わらない気がするけど、「日本の竹でフィラメント作りました」なんて話より数段面白いドラマが、あなたの使うコンピュータの、その発明の裏側にあったことを、どうぞ知っていただきたく思います。



チューリングを読む コンピュータサイエンスの金字塔を楽しもう -
チューリングを読む コンピュータサイエンスの金字塔を楽しもう
posted by アッシュ at 17:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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