2016年02月15日

不屈の男 アンブロークン

[50点]@シアター・イメージフォーラム

 いろいろ物議をかもした作品。先に言っとくと、右か左かっつったら僕は右寄りな方で、日本を悪く言われてうれしいわけはないです。
 でもまぁ、「見ずに批判するな」は真理だし、脚本はコーエン兄弟なんで、むしろサスペンス寄りできっちりしたものができてるだろう、という期待のもと見に行ったわけですが……。
 その「物議をかもした」あたりは、あんまり気にしなくていいです。もともと、「自国人が戦時に外国でひどい目に遭わされたけどがんばった! 映画」は、どこでも作ってんですから、いちいちことあげしてたら始まりません。

 それどころか本作の場合、日本軍はおろか戦争にさえ主眼があるとはいいがたい。
 「いかなる環境におかれても誇りを失わず耐え抜く男のサバイバル」な話を語るのが主眼で───要するに、あれですよ、アメリカが大好きな宗教説話もの。「キリストの受難」になぞらえているんです。宗教テーマのためなら、いかなるところからでも善悪対立を引っ張り出すのがキリスト教。

 だから本作を見て、「皇軍兵士の侮辱ー!」とか言い出したら、そりゃアホとしか言いようがありません。
 現実に虐待をした兵士がいる事実は認めましょう。軍全体の問題ではなく、個人の資質の問題であることは作中で示されています。むしろここを、「社会・民族の総意としての悪意」でなく、「個人の悪意」にしたがゆえに、テーマがぼやけ、この作品を凡作たらしめている、ともいえます。
 (「日本軍の行動」として、もっともキツい描写……事実ならば戦争のおぞましさを思い、脚色ならば侮辱すんなと怒るべきは、「救命ボートに機銃掃射」じゃないでしょうか)

 この映画に日本人として抗議したいならば、まず「寛容や赦しをなぜ宗教依存の行動と捉えるのか」、という点に疑問を呈するべきではないかな?


 でまぁ、面白いかと言われると微妙で……。事実ベースだから仕方ないんだけどさ……。
 漂流して生死の境をさまよい、その後ジャングル内の独房で処刑の恐怖に怯えるという、圧倒的な絶望感でぐいぐい引き込んでくる前半と比べると、現代の刑務所くらいの待遇はある収容所で、DQNな看守がひとりいるだけの後半の状況は、「甘っちょろい」の域(伍長ていどでなんであんなに偉そうなのか、という点はありえないよなぁ……また、捕虜待遇が敗戦濃厚になるにつれ劣悪に変化する点は、非難すべきでない)。そこで、キリストのまねごとをされてもなぁ……。

 (なお、「白鯨との戦い」を見た人は、その前半でさえ「甘っちょろい」という感想になると思うよ![自分は見てません。「エセックス号事件」を事前に知ってたから、見たら鬱になるのはほぼ確実だと思って]

 捕虜虐待を行う渡辺伍長は、「ノーカントリー」におけるハビエル・バルデムさんのごとき不気味さを出しつつ、あの手この手で主人公をいじめ抜くわけですが、先に述べたとおり「個人の悪意」であって、出世できない八つ当たり&嫌がらせでしかない、と描写されるので、どうにもこうにも……。
 描き出したい「気高さ」にたえうるか、と考えたとき、あのクライマックスはまったくクライマックスたりえません。ガタガタ言った右翼さんたちには申し訳ないけど、事実であるかはまったく別問題として、「収容所にいた日本軍人全体が、渡辺伍長の悪意を中心に、集団心理によって人道を外れていく」という描写でないと、この作品は「人間の恐ろしさ」「それに耐え、赦す人間」を描いたとはいえません。そう踏み込めなかった時点で、アンジェリーナ・ジョリーもコーエン兄弟も、とっても優しい人たちだった、と思ったほうがいいです。



ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] -
ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
posted by アッシュ at 16:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/433847071

この記事へのトラックバック