2017年01月10日

短評(スタンドオフ/ドントブリーズ)


シチュエーションサスペンス2題。
これで去年公開の映画は全部出揃ったかな? 「海賊と呼ばれた男」がいちおう予定リストには残っているけど……見るかどうかは正直微妙。


スタンドオフ
[65点]
@シネマート新宿
 孤独な元軍人が住む荒野の一軒家に、殺人を目撃し証拠写真を撮ってしまった少女(超美ロリメガネっ娘!)が、殺し屋に追われて逃げ込む。序盤のやり取りで、元軍人殺し屋ともに、病院に行かねばいずれ死ぬ傷を負い、行動の自由が効かなくなる。2階に元軍人と少女、1階に殺し屋が陣取って、少女の命とフィルムをめぐって駆け引きが始まる……。
 1ヶ所、かなり痛いミスがあって、字幕を見る限りでは、途中のあるシーンで、殺し屋は軍人の残弾が1であると明確に見破っているんです。おそらく実際は、見破ったとは断定できないハッタリなのでしょう。その残弾を使ってしまった後も駆け引きが続くので、ちょっと引っかかってしまいました。
 それ以外は、1階と2階の位置関係だけで盛り上げ、さりとてあからさまなギミックもなく、伏線を意外なかたちで回収していく会話劇シナリオが面白いです。カメラも女の子も問題の解決にはなんら寄与しないとは。でも、なくていいわけじゃない、とても重要。
 日本も、若手監督や脚本家は、こういうのを作るのから始めたらいいと思います。


ドント・ブリーズ
[75点]
@渋谷シネパレス
 ここしばらく暗い話は避けてたのですが、評判いいので見てみました。住人は盲目老人だから気づかれるまいと泥棒に入ったら、実は聴覚鋭いシリアルキラーで、音を立てたら感知されて即殺されますよ、という話。
 怖さ、という点では弱いですが、素人目にもカメラワークにこだわっているのがわかる、演出技術の高い作品でした。登場人物が息を止めている間、自分も止めてたくなるもん。あと、●REC以来の見事な暗視カメラ表現!

 面白いのは、この作品には、「目が見えず耳が頼りの老人を、どうやれば幻惑・誤誘導させられるか」という発想がほぼありません。
 そうなってしまうのは、主人公ズのキャラづけをガッチリしてある上、冷静な判断をさせない展開が徹底されていて、彼らは「怖いので感づかれないように逃げる(でも金は持ってく)」という極めてプリミティブな要求でしか動かないからです。
 これはむしろうまい「縛り」で、「ヤバイヤバイヤバイ!」という感覚だけがどんどん浮き彫りになっていって、効果的でした。

 そして、いちばん心憎いと思った点。
 この話、「」さえ無事に「あの家」から脱出できれば、いちおうのハッピーエンドになります。「ヒロイン」はどういうエンドになろうと、観客は納得がいく。アンハッピーエンドさえ可。
 ラストが見えない不安定さ自体はよくあるパターンで、その場合、ラストシーンだけ何かどーんとびっくり演出を置いて終わらせるのが定番ですが、本作の場合、ぎりぎりで伏線の「車のトランク」→「てんとう虫」に観客の意識を振る。
 うーむ、これ作った人テクニシャンだわー。ホラーはやっぱり見ないと思うけど、フェデ・アルバレス、覚えておきましょう。



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2017年01月07日

アイ・イン・ザ・スカイ

[65点]@TOHOシネマズシャンテ

 ドローン・オブ・ウォーに次ぐ「ドローン戦争」もの。かの作品で再現されていたコンテナを、またも見ました。
 シャンテのみ先行公開、他の映画館は1/14公開だそうです。

 ドローン・オブ・ウォーは、トリガーを引く操縦士にフォーカスしていましたが、本作は命令を下す指揮官の苦悩が描かれます。なんとなれば、ドローンの飛ぶ舞台はケニア。つまり「敵対国」ですらない! 目標のテロリストも、テロ組織に参画したとはいえ自国民。
 まずもって「攻撃していいのか」というとこで、たいへんな騒ぎになるのです。まして、民間人を巻き込むおそれがある、ともなると。

 決断が遅れればテロリストを逃してしまう。しかし現場-指揮官-軍上層-政治家間を、情報と決定権が行ったり来たり、方針は定まらない。焦る指揮官、責任逃れを重ねる政治家、「緊迫感のあるブラックコメディ」としては、ギャヴィン・フッドの手並みは間違っておらず、すこぶるのめり込めます。

 ……ただ、のめり込めるがゆえにヤバく思える点がありまして。


 ひとつは、当事国であるはずのケニアがガン無視であること。

 米英人テロリストの存在だけが問題視され、ケニア人やソマリア人のテロリストについては俎上に上がりません。
 それに、物語のキーとなる「目標付近にとどまっている7歳の少女」については大騒ぎしますが、それ以外のケニア人はどうっでもいい扱いです。目標は市場のすぐ近くで、人通りソコソコあるんで、被害が出ないわけないんですが、無視です(自分は途中で、目標をずらす決断によって少女でなく両親が死ぬ、というオチを予想しました。いやホント、あの位置攻撃してなんで親が無事なの?)。

 また、領空を米軍のドローンが我が物顔で飛び回るのは話が事前についてるにしても、国民に危害を晒すおそれのある「攻撃決定のプロセス」において、「当事国が一切関与しない」という描写はマジなんですか。つまり、友好国ケニアの少女を殺していいかどうかを、アメリカとイギリスだけで話し合って決める、という異様な状況を、登場人物が誰も疑問視しない。
 きちんと監修もついて、実際の軍事規定をなぞっているらしいんですが……「危険人物がいる」という理由だけで問答無用でよその国をぶっ飛ばすステルス」を、ギャグ扱いして笑ってましたが、まさか現実の運用がそうなるとは……笑えないわこれは。


 もうひとつは、全体的に軍人>政治家の描写ということ。
 政治家はいつも安全圏にいて、責任転嫁しか考えず、戦争はプロパガンダが優先であると認識し、一方で軍需品の輸出には熱心で中国人におもねる惰弱な存在として描かれます。
 人間的で正しい状況判断ができるのは、現実に即して問題を捉える軍人である。現場で働く軍人を馬鹿にするな。そういう論調になってしまっているのです。

 たとえ時間がかかり、愚かな決断となり、犠牲者が増えたとしても、「軍人の独断専行を許してはならない」「決断を下し責任を負うのは『国民の代表者』、ひいては主権者たる国民でなくてはならない」というのが、文民統制の最大の原則では? と僕は思うのですが、本作に登場する軍人たちは、そうしていちいちお伺いを立てることがどうも不満なようです。

 僕はあくまでこれを「風刺」と受け止めますが、修羅場も見たであろう南アフリカ生まれのギャヴィン・フッドは、もしかすると本気で「米英の軍人に全部任せるべきだ」と考えているのではないかと、少し不安になるのです。



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2017年01月06日

2016年ベスト&ワースト


 あけましておめでとうございます。

 2016年は、映画党として実に良い一年でした。
 恒例のベストテンから始めます。順位付けしようにも、どうにもなりません。嬉しい悲鳴です。

ベスト10

1位/シン・ゴジラ
2016年、文句なくいちばん「スゴかった」作品。

1位/君の名は。
事実上新海誠に全振りしてきた、コミックスウェーブの忍耐が報われた感。

1位/この世界の片隅に
これを機に「戦争映画」の傾向が、少しでも変わってくれればいいと思います。



シン・ゴジラ -
シン・ゴジラ

君の名は。 宮水神社湯のみ -
君の名は。 宮水神社湯のみ

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4位/帰ってきたヒトラー
見たときは、間違いなく今年ベストと思ったものですが。

4位/聲の形
必ず2回見るべき作品。最初は描写どおり石田くん視点で、2回目は西宮さん視点で。小学生西宮さんの意図がわかると戦慄しまっせ。


6位/レッドタートル -ある島の物語-
傑作なのに、世間の「ジブリブランド」の過大な期待のせいで不憫な結果に……あれ、「三鷹の森ジブリライブラリー」のブランドを移行させちゃダメだったんだろうか。

7位/PATLABOR REBOOT
一昨年のワーストの反動がないといえば嘘になりますが、見たかったものが見られて本当に良かった。

8位/ペレ 伝説の誕生
「世間の評価は低くとも、僕だけは高く評価する」作品は、例年ならもう少し高い位置につけるんですが、今年は層が厚い。

9位/たまゆら -卒業写真-
2016年いちばん泣けた作品。いやマジで。「このせか」は僕にとっては泣く作品ではなかったので。

10位/ロイヤル・ナイト -英国王女の秘密の外出-
最後の一本は、アーロorズートピアとかエクスマキナとかいろいろ横並びで選ぶのが難しかったですが、最終的には自分の嗜好を優先ってことで。



ワースト3

1位/カゲロウデイズ -in a day's-
ぶっちぎりで 2016年ワースト、という話はリンク先参照。

2位/明日の世界 -ドン・ハーツフェルトの世界-
こんなのあったっけ? ……これです。マジで、英語で念仏を2時間聞き続けて平気な方以外は、「記憶にすら残らない」作品。

3位/魔法使いの嫁・-星待つ人:前編-
世にはいろいろえげつない特典商法がはびこっておりますが、それは「『それでもしょうがない』と許してくれるファン層が構築されてはじめて成り立つ」という、あたりまえのことを見誤った作品。

 この下はペイ・ザ・ゴーストとかウォークラフトとかマネーモンスターとか、キリがなさそうなのでこのへんで。


 アニメに特筆すべき作品がなかった2015年と異なり、2016年はベストもワーストもアニメが多数を占めました。

 今年ですが、神山健治監督の「ひるね姫」が控えています。「君の名は。」以降のアニメ映画を占う意味で重要な作品になると思われます。
 が、自分は見なかったんですが、年末に彼が「総監督」名義でやったサイボーグ009の新作は、2012年版を上回る勢いで「セカイ設定」の念仏を唱える最悪な作品だったらしいです。また、「ひるね姫」公式サイトのストーリー紹介が「岡山県倉敷市」で始まるあたり「聖地巡礼需要に色気満々」とみえるとことか、地雷の匂いがぷんぷんします。そういう低い期待値を上回ってくれればよいのですが。

 では、またつらつら書きっぱなしにするかと思いますが、今年もよろしくお願いします。
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2016年12月31日

ピートと秘密の友達

[70点]@TOHOシネマズ川崎

 ディズニーの子供向け映画にしては全然話題になってないし公開規模も小さいので、どんだけ駄作なんかと思っていたら、なかなかどうして。40年前の作品のリメイクだそうですが、シンプルな話を手堅くまとめた良作です。
 何しろ、登場人物が出揃ったあたりで、先のプロットがあらかた読めます。その通りになります。でも、つまらなくないし不快でもない。きちんと物語に没頭できる。よい意味で子供向けだと思います。
 
 例によって邦題がダメで、友達は秘密でもなんでもなくて、主人公ピートのほうがよほど「秘密」なポジションでした。「ジャングル・ブック」的な生い立ちに捻りがあり、5歳で山中の交通事故によって親が死ぬ、という設定。
 なので最低限の人間性があり、言葉がわかり、車も知っている。「文明に触れてビックリする」という定番の展開が排除されて、物語がとてもスムーズに進行します。

 そして、喪った家族を取り戻していく展開、しかしそれは共に暮らしてきた友達を喪うことでもある。ここ、御託は並べず、本能に近いふるまいで、ピートは家族を選ぶ、という描写が美しい。

 ……「新たな母親」となるブライス・ダラス・ハワードの母性を強調すべく、着衣おっぱいをどアップにするシーンが、おっさん的にはすばらしいので必見(笑。実は「レディ・イン・ザ・ウォーター」の「ストーリー」だったと知って驚きました。


 まだ見てない作品がいくつかありますが、今年はこのエントリで打ち止めです。よいお年をー。



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2016年12月27日

ローグ・ワン

[前半45点][終盤80点]@チネチッタ

 終盤の大バトル&畳み込みは凄いですそれに異論はないです。
 なればこそ。

 ……なんでこの作品、ジンが主人公なんですか?

 反乱軍のためと思い、意に沿わぬ汚れ仕事に手を染めてきた連中が、自らの名誉を取り戻すために、政治ではなせぬ大仕事に命を賭ける。それが中心になくちゃいけないんじゃないの?

 ジンというキャラクターに、感情移入対象としての作り込みが足りず求心力もないので、「ローグ・ワン」が成立するまでは、戦争がひとごとにしか見えません。人生フォースとともにあると言い切れるようなSWファンには、そうでないのかもしれませんが。

 登場する幾多のならず者たちの背景にあるそれぞれの物語を、ほんの少しでも盛り込んでくれたら、もう少し感じが違ったと思います……が、もしかするとあれ本当はひとりひとりちゃんと名前ついてて、ディズニーはこれから赤穂義士の向こうを張って「ローグ・ワン銘々伝」を始める気では? と思うとそれはそれでなんかヤダ。



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2016年12月24日

ポッピンQ

[50点]@チネチッタ

 日本における永遠の謎のひとつ。なぜ小学生男子にコロコロで圧倒的シェアを誇る小学館が、その読者層を維持できず、少年誌ではジャンプマガジンの後塵を拝するのか。
 ……この作品もそういうことなんだろうなぁ。
 狙いはすごくわかる。プリキュアで小学生女子をガッチリ押さえてる東映アニメーションが、「次の年代」を、プリキュアの手法とラブライブの路線をミックスさせて、取り込もうとしたのである。

 でも、売り方を間違えると……。
 「ダンスで異世界を救う」がガッチガチのメインプロットなのにそれを隠し、「異世界に飛ぶ」に違和感が生じるような、そして石塚運昇が「ダンスじゃ」と言った瞬間に「なんでやねん」とツッコまざるを得ないような、そんな予告編を作ったりすると。

 この、明らかに中学生女子だけしかターゲットにしてない作品の初日に、30以上のおっさんばかりが押し寄せるという事態が発生するのである。


 いやさ……開幕30秒で、大人の見るもんじゃないと思い知らされまっせ。正確にいえば、「物語リテラシーの低い人を相手にしています」という限りなくあからさまな主張……かな。それでも、あのテロップは出さずに組み立てるのがまともな演出家でしょうよ。
 以降、東映アニメーションが本気を出しているのでアニメにまったく瑕疵はないですし、個々のイベントはきっちりツボを抑えてはいるのですが、イマイチ乗り切れません。映像でなくセリフで説明していく例のパターン多いし、「世界の危機」にまったく説得力が無いので、あの異世界における主人公たちの行動は、「ただ言われたとおりやる」で終わっている。


 では、それだけわかりやすく中学生レベルの物語を組み立てた結果として、予告編で強調した「彼女らの卒業前の不安」についてうまく描けたか? って話です。そこさえ描けてればこの作品は成功だったはずなんですが。

 僕はね、中高生がいちばん悩むのは、それなりに歳を重ねて世界が広がってきたときに、どんなにがんばってもより優れた人がいる、上を見たらきりがない、という「才能の差」が見え始めることだと思うんです。それはもう、「心の持ちよう」ではどうにもならない。だから苦しい。
 (強制的に老化させられるシーン、あれだけはよかった。だけどそれは「老い」そのものが恐ろしいのではなく、「何もなせずに老いる」のが恐いのだということを、制作陣はわかっていたか?)

 恐ろしいことに本作では、登場人物全員「才能の壁」が存在しないの。より秀でた存在がおらず、「彼女らに見える世界の範疇で、自身がそのジャンルで最優秀であると自他共に認めてる状況」なんだよ。
 で、彼女らのうち3人は「優秀すぎて敵を作ってしまった」という、贅沢すぎる悩みを抱えていて、残りの2人は、持てる才能に対してあまりに低次元な「普通の女の子でいたい!」的な悩みを訴えるのですわ。
 加えて、まったく別のジャンルであるダンスに手ェ出して、世界を救う奇跡のレベルにたった10日で到達してミッションクリアですよ。才能有りあまりすぎてて気色悪い。

 この「子供の全能感」の延長線≒プリキュアを継承したままのキャラ描写で、一年代上に共感してもらえると思う? 本気で?
 完全に勘違いしてできあがってるものを見るのは、哀しくすらあるよ。


 あとひとつ書いておきたいこと。
 東映アニメーションは、地方のアニメ制作会社で地方を舞台にしまくる京アニや PAWorks が、セリフになぜ方言を使わないのか、聞いたことないのかな。
 好きな声優だからあまり言いたくないけど、実質ほぼ標準語のイントネーションで、ときどき思い出したように語尾が変わるだけの瀬戸麻沙美の土佐弁は、キャラ個性として確立できておらず、聞いてて苦痛。使うべきではなかった。


 いま東映アニメーションなら、「虹色ほたる」が配信されてるそうだから、そっち見ようみんな。



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2016年12月22日

映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!

[60点]@TOHOシネマズ川崎

 妖怪ウォッチは、しばらく遠ざかっていたコンテンツだったんですが、本作に限っては、実はものすごく期待してました。
 予告編を見たときのあの戦慄は忘れられません。これはスゴイ。ローグ・ワンなんかメじゃねぇって。

 今までにも、実写とアニメの融合、なんて作品はいくらでもありました。しかし、アニメの側を「主」「真」「正常な世界」とし、実写を「従」「偽」「異常な世界」と定義して物語を構築した作品があったかって話ですよ。
 少なくとも予告編はそう見えたんだ。

 実際見てみて、どうだったか、というと。
 残念ながら、結局は「実写が主」でした。実写とアニメが文字通りに平行世界である設定で、ケガに絶望した「実写側」の人物が妖怪を生み出し、「自由に動ける」という理由でアニメ世界に紛れこんできた、というストーリー。
 そんでもって、実写とアニメで「ルール」にあまり違いがない、あるいは想像のつく範疇でしかなかったです。違いに意味があったのはせいぜい、「現実的だから」アニメっぽい技は全然効かない、くらいでした。でも、敵による「キャラを魚に変える」技はフツーに実写側で通用してるというね。

 つまるところ、せっかくのダブル世界のアイディアは生かしきれてない印象。そもそもなぜ「実写/アニメ」の切り替えが効くのか、それがなんでコアラの能力なのか、とかも全然わかりません。
 ……妖怪ウォッチ、というか日野晃博に論理的整合性を求めるほうが無理筋でしたわあっはっは。あきらめた。


 素直にいつものギャグアニメとしてみると、実写を「毛穴世界」と呼ぶセンスとか、一瞬だけ登場する(予告でも圧倒的存在感があった)遠藤憲一の人面犬のインパクトとか、ギャグやってネタやって終わったら次のネタいってみよー! という変わらぬコロコロノリで楽しいです。
 その点、人面犬は一瞬なんだけど、遠藤憲一は別の形で映画全体のオチを担当しています。これが、論理的整合性ぶん投げの最たるものであると同時に、すでに「おもしろかったねー」とか言ってお帰りモードに入っていた子供たちを大爆笑に包む素晴らしいキレ味で、ここで笑ってもらえたらギャグアニメの本懐極まれりってモンでしょう。
 オトナにゃもうわからん世界ですが、その意味では傑作かもしれません。


 遠藤憲一以外の「実写勢」ですが、

 澤部佑のクマは出オチでした。
 ゲストヒロインたる浜辺美波は、最重要役でありながら存在感があまりありません。最近あちこちに出ててゴリ押し感ある人ですが、声も顔もかわいくなく、正直、使い倒されたあげくにポイ捨てされる将来しか見えません。かわいそうな感じがします。
 一方で武井咲がべらぼうに美しくて、小学生設定のヒロインズと並べても遜色ないのが怖いくらいでした。つーか、「毛穴世界」なのにあんな肌つるっつるの毛穴なさそうな人をなぜ使ったのだ(褒めてます)。

 だが山崎賢人と斎藤工、おめーらはダメだ。
 おめーらのダンスは、王と面従腹背の部下がなぜか完璧に合う、ってのがギャグのキモだろうが。なんだあのてんでバラバラのやる気のない手抜き。子供向けだからってナメてんじゃねぇ、まじめにやれ!



映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン! -
映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!
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2016年12月21日

幸せなひとりぼっち

[70点]@ヒューマントラストシネマ渋谷

 「ホルテンさんのはじめての冒険」「100歳の華麗なる冒険」と、毎度味わい深いものが出てくる北欧の老人映画。本作も良かったです。

 今回の爺様は偏屈ジジィ。ある住宅地の地区会長を長年務め、地区のルールを住民に口うるさく押し付ける日々。でも愛妻に先立たれ、序盤はあの手この手で後追い自殺を試みるも、引っ越してきた移民一家のイラン人妻になぜか邪魔される……。
 爺様の演技が絶品で、イヤなジジィなんだけど拒絶はしきれないギリギリのところからはじまり、しかたなく少しずつ心を開いていく進展が見事です。

 たびたび背景に国旗が映り込むし、車はサーブしか認めない(ボルボ好き友人との意地の張り合いがメチャメチャ笑える)あたり、この爺様はスウェーデンという国家そのものです。偏屈に老いて己の言い分を通したくとも、移民とも、LGBTとも否応なく向き合わなきゃいけない立場にある。
 そうした異物に、なべて寛容であれ手を携えて生きよ、とだけ能天気に主張するのでなく、「爺様の作ったルールをちゃんと守り引き継ぐことが受容の前提」、という点をさりげなく示す、線の引き方がうまいと思いました。

 無駄に長い回想シーンがイマイチ噛み合ってないのが残念。現在の爺様見てれば過去はなんとなく見えてくるので、そこは観客の想像力を信頼してほしかった。で、回想シーンは最終的に「奥さんの過去の真実(意味するのはおそらく『高福祉国家の幻想』)」へと導かれるワケですが、どうもご都合主義感を禁じえない……というか、なぜそのデキた奥さんがそばにいて爺様の偏屈が維持されたのか、本作が最大の謎。

 あと、回想には若かりし頃の爺様が登場しますが、役者さんが違うのに声がほとんど一緒なので驚きました。あれマジでアテレコか何か?



100歳の華麗なる冒険(字幕版) -
100歳の華麗なる冒険(字幕版)
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2016年12月14日

RWBY -Volume 3-

[60点]@シネリーブル池袋

 いやぁ……すげぇ盛り上がって面白かったんですけどね。
 とりあえずこの RWBY というシリーズでは、Volume 1 で僕が期待した「欧米人によるアニメの換骨奪胎とはいかなるものか」という新規性はもうあきらめたほうがよくて、Volume 2 以降、「ストーリーのついた格闘ゲーム」以上のことはやんない、という路線で邁進してることはよくわかりました。それはそれで斬新でスゴいんですけどもね。

 「監督がお亡くなりになった」とたんに変貌したのか、元からそういうプロットだったのか知りませんが、さらなる展開のために後付としか思えない無茶な設定を盛り込み、風呂敷を広げまくった挙句に、主人公ズには試練を与えて現在絶賛ドン底状態、ここからどうやって盛り返そうか……というところで第4期に続く! とか、どうすんのこれ……。豊口→伊藤静なピュラ嬢の無駄死にが絶望的過ぎるよ……。

 で、あの……「劇中最強のチートキャラ・その能力の奪い合いが最大のイベント」であるところのアンバーさんがあっさり普通に負けて、その一方で脇役に過ぎないエメラルドさんの能力が、「範囲・人数無制限で幻覚を事実と認識させられる=もう全部あいつひとりでいいんじゃないかなクラスのチート」なんですが、そこらへんのさじ加減はどうなっておるんでしょうか……。

 とりあえず僕は、パラソル子さんが再登場してくれたんでそこがいっとうアガりました。まだ死んでないよね? ね?



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2016年12月06日

メン・イン・キャット

[70点]@TOHOシネマズシャンテ

 予約のとき、アレ?って思ったのです。だって FRENCH って書いてあるんだもの。フランス映画?
 見てすぐに、答えは解けました。……ヨーロッパコープかよ!

 というわけで、「オヤジの魂がネコに入り込む」という筋の、「ネコ動画みんな喜んで見てるんだから、ネコ映画もみんな見るだろ!」な短絡思考に基づく、安っぽくてあざといけどツボはガッチリ押さえた、非常にヨーロッパコープらしい作品。アクション以外でもこういうあざといのを作れたんですなぁ。
 犬がお父さんの国で若本規夫に予告編打たせて、ぬかりなしです。そういや日本でも「猫侍」とかやってたっけ……。

 (ここまであざとくやったわりに、エロ方向のサービスシーンがないのが意外ですが、ネコ動画が流行る理由のひとつは、PC的に安牌って部分もあるから、そのリスクは避けたってとこですかね。)

 最後に取締役会がなぜ逆転したかまったくわからんのですが、些末なことです。どれくらいCGなのかよくわかりませんが、カバンをトイレにするわ酒飲んでへべれけになるわ、やりたい放題の「ネコ動画」が「どうだこの野郎」と言わんばかりにぶっこまれるので、「ははぁ参りました」と見るしかないです。
 それでいて、わりと複雑な家族関係を(同族経営のまんまでええのかという是非は別として)、すっきり軽いハートウォーミングへとまとめていて好感触。ラスト近くの主人公の「一生あのトイレなのか」というふざけたセリフが感動を呼ぶあたり、よくできてると思います。

 あと個人的には、クリストファー・ウォーケンの元気な姿が見られて嬉しかったです。



劇場版 猫侍 -
劇場版 猫侍
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2016年12月05日

マダム・フローレンス -夢見るふたり-

[55点]@ユナイテッドシネマ豊洲

 予告編だけでホロリときてて、これが今年の「老人映画」枠かと勝手に期待を高めてたせいかもしれないですが、ちょっと首をひねるデキでした。

 何がまずいって、第一に、メリル・ストリープ歌うますぎ。「伝説の音痴」と呼ばれた人、それも50年以上死と隣り合わせでいた病弱、という設定なのに、隠しきれない圧倒的な声量。ヘタに演じてはいるのだけど、笑いものにはとてもできません、絶対この人将来伸びるって感じがしてくるんだもん。当時76歳の人だというのに!
 でもほぼすべての登場人物が、彼女の歌を聞くと全否定で嘲笑するのです。まったくわかりませんでした。そして、ここがわからない人には、絶望的に入り込めない作品になってます。

 で、思わせぶりに出てきた「夫の愛人」が本当に単なる愛人でしかなかったとか、最初は笑ってた女が、その後なんの絡みもないのにクライマックスでは唐突に「一生懸命やってるんだからいいじゃない」的に持ち上げ出すとか、夫がひたすら隠した「酷評」を知ったとたん主人公はショックで倒れてそのまま死ぬとか、この素晴らしい題材がどうしてこんな下手な料理になるのか信じがたいレベル

 あれさ、ヒュー・グラント演じる夫はもともとは遺産狙いで近づいたわけよな。でも、ヘタでも心底音楽が好きな彼女と25年も連れ添えば、そりゃあ応援するようにもなるよね、って話じゃないの? だったら25年間きっちり描写して、「彼女の音痴が時間をかけても矯正できない」エピソードを含めるべきだったんじゃないかな。Wiki によれば歌手デビュー1912年とかなってるんで、1944年だけにむりやり押し込むことなかったんじゃ……。

 もっとも、1944年に特化した話になって、「酷評」を伝えるニューヨークポストの一面トップが対日の戦局だったりするもんだから、「1944年アメリカ日常もの」という感触のある作品になってもいて、すずさんが苦労する頃海の向こうではこんなことやっとったんかぁーとしみじみ思っちゃったりもしました。



「ハイCsの殺戮」オリジナル・レコーディング(1937-1951) - フローレンス・フォスター・ジェンキンス&フレンズ
「ハイCsの殺戮」オリジナル・レコーディング(1937-1951) - フローレンス・フォスター・ジェンキンス&フレンズ
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2016年11月30日

劇場版 艦これ

[55点]@ユナイテッドシネマ豊洲

 いやぁ……酷いというにはよくできているんだけど、やっぱり酷い。

 そもそも艦これアニメは、ゲームの内容的に史実を適用できるわけない(大半が撃沈されてるわけだから)のにしようとする点が、最初から巨大なコンセプトミスだったと思うのです。そこへ「女の子キャッキャウフフ」に特化した花田十輝を脚本に連れてきたんだから、噛み合うわけがない。
 テレビシリーズはだいぶ炎上しましたが、ミスなりにそのコンセプトを「如月撃沈」で最大限浸透させたにもかかわらず、その直後にカレー作り始めたりしたわけで、そりゃ燃えもするでしょう。

 この劇場版は、キャッキャウフフは抑え、「史実適用」のコンセプトミスを、開き直って全力で徹底的に糊塗した作品で、その点は成功しているようです。とはいえ誤りは誤りに違いなく、物語も雰囲気もやたらダークでいたたまれません。それに、あの「世界設定」をせめて「艦娘全体の問題」として描写すればサマになった気がしなくもないけど、結局のところ吹雪にぜーんぶ押し付けるという描写なのでね……。
 うん……吹雪に感情移入できたら面白いんじゃないかな。でもこの作品、「吹雪を主人公だと認めてる」観客がスーパーレアだろ……。

 わかる……誰かブレーキ踏めよって思うけど、踏んだ結果の後始末がこれなんだって……。後始末のための、誰も望まない暗い作品に、本当に全力で真面目に突っ込んで、演出とかエフェクトとかバトルシーンをえらい勢いで盛り上げたスタッフのみなさんには敬意を……才能やリソースの無駄遣いとしか言えねぇけど……。



劇場版 艦隊これくしょん-艦これ- 原作ゲーム実装音源収録 PLAYBUTTON【艦娘mode】 -
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2016年11月28日

戦争映画ベストテン


 今年もこちらに参加します。
 過去の参加リスト。

 <SF映画ベストテン
 <ホラー映画ベストテン
 <スポーツ映画ベストテン
 <アニメ映画ベストテン
 <音楽映画ベストテン

 何度も書いてますが、「戦争映画」は、「当時の人にはそれが日常」という視点を欠くべきでない、と考えています。なので自分の場合、軍隊が派手にドンパチする話より、そういう作品が上位に来ます。
 現代戦でなくてもよさそうなので、日本中国中世ヨーロッパ等の戦国時代劇ものもいろいろ考えてたんだけど、意外に思いつかないのは、そういうのは結局、ドンパチがメインになるものがほとんどだからですね。

 まずリストから。洋画の年号は日本公開年。



  1. イノセント・ボイス -12歳の戦場-(2006/ルイス・マンドーキ)
  2. 日本のいちばん長い日(1967/岡本喜八)
  3. ドローン・オブ・ウォー(2014/アンドリュー・ニコル)
  4. この世界の片隅に(2016/片渕須直)
  5. 火垂るの墓(1988/高畑勲)
  6. オーガスト・ウォーズ(2013/ジャニック・ファイジエフ)
  7. 戦場でワルツを(2009/アリ・フォルマン)
  8. 独裁者(1940/チャールズ・チャップリン)
  9. 硫黄島からの手紙(2006/クリント・イーストウッド)
  10. 王立宇宙軍 オネアミスの翼(1987/山賀博之)




以下5位までコメント。

1位/イノセント・ボイス -12歳の戦場-
 「この世界の片隅に」に衝撃を受けた方はぜひこれも見てください!
 戦争=日常という描写がもっとすさまじいことになっているから!

2位/日本のいちばん長い日
 原田版よりも岡本版、な理由はリンク先参照。

3位/ドローン・オブ・ウォー
 今このベストテンをやる以上は、絶対上位に挙げておきたい一本。現代の戦争は、「通勤」するのです。

4位/この世界の片隅に
 たぶん勢いで総合1位を取りそうだけど、入れないわけには。

5位/火垂るの墓
 「この世界の片隅に」との対比にこの作品を出している人が少ないのが気になります。ニュアンスは似てると思うんだけど。
 あと、これを公開当時二本立てで見た人間としては、「となりのトトロ」がなぜ人気なのかまったく理解できません。こっちのインパクトが強すぎて、トトロの記憶なんて消し飛んだってば。

 後はまとめて。真っ向から「ドンパチ」を描いた作品は「硫黄島からの手紙」だけになりました。

6位/オーガストウォーズ
7位/戦場でワルツを
8位/独裁者
9位/硫黄島からの手紙
10位/王立宇宙軍オネアミスの翼


 最後はネタ枠。でも軍隊の話だし戦争もしてるし冷戦モチーフだし全然問題ないですね。
 アニメが4本。戦争をシビアに描くなら、アニメのほうが向いていると思っています。「戦場でワルツを」の感想で述べたとおり、アニメだと「弱い軍隊」を描写しやすいからです。

 あと書いておきたいことは……、「ドローン・オブ・ウォー」を上位に上げた身としては、12/23公開の「アイ・イン・ザ・スカイ」を見てから投票したかった、ってことかなぁ。

 以上、よろしくお願いします。



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日本のいちばん長い日 [東宝DVD名作セレクション]
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2016年11月25日

この世界の片隅に

[85点]@ユナイテッドシネマ豊洲

 まず最初に。
 これから見る方は、テアトル新宿は避けた方がいいです。2回目をテアトル新宿で見たのですが、どうやら空調の吹き出しがスクリーンに当たっているらしく、画面の一部が常時微妙に震えていて、気が散ることこの上ありません。



 さて。
 以前から書いているとおり、戦争映画が戦争の惨禍を伝えたいならば、「それが当時の日常である」という視点から逸脱すべきでないと、僕は考えています。そうでないと、描かれるものが「嘘・フィクション」と受け止められ、現実と地続きのものとして認識されないので、「自分には関係ないこと」という意識をより強めるだけだからです。

 だから僕は、原田版の「日本のいちばん長い日」が、遠い歴史物語として描かれたことを深く憂慮し、また、戦争の日常を描ききった「イノセント・ボイス」を高く評価しています。
 日本中に衝撃を与えている本作ですが、僕にあるのは「日本でもこういう映画が出てきたか」という感慨です。本作で衝撃を受けたみなさん、ぜひ「イノセント・ボイス」も見てください。

 18歳のお嫁さんの目線と、12歳の子供の目線の違いはあるものの、同様に庶民の目からまっすぐに戦争を見据えています。序盤から明確に「迫りくるタイムリミット」を設け、その近傍で日常からはずれ、また戻ってくる点も同じです。

 ただし本作では、そのタイムリミットは、「日本人にしかわからないのでは」という懸念があります。日本人なら誰もが教わる原爆の惨禍、その知識の共有をあまりに信頼しすぎている上に、潔癖なまでに「すず視点」が貫くがゆえに、情報に俯瞰性がありません。
 海外での公開も決まっているようですが、彼らは「何」が近づいてくるのかわからないまま淡々と日常を見続けるわけで、どう評価されるのか気になります。
 あの原爆の表現がどれほど斬新で衝撃的か! でも下手をすると、「なぜあの雲の後に雨が降らなかったのだろう? 不思議だ」という反応が出てくるんじゃないかなぁと……。

 イベントの詰め込み過ぎによる、安直な場面転換の多さもちょっと気になりました。もう少し減らしたほうがすっきりしたはず。「妊娠したかも」のシーンが、後に響かないのはどうなのか。「産めないとわかった」みたいなことかもしれないけど、あのご時勢、もしそうなら能天気な話は進行しづらいわけで……。



 ともあれ、「戦争の日常」を描ききった快作です。
 原作ではりんさんも交えた色恋模様の傾向もかなり強いようですが、オミットして正解だったでしょう。この物語に貧困の娼婦を交えてしまうと、「かわいそうな話」と勝手に定義づける人が出てきて、日常を描く意味が消えてしまいます。

 「日常を描く」作品は必ず喜劇になります。誰も、悲しい日常なんて見たくないのです。「イノセント・ボイス」では、楽しい日常に突然「戦時」が紛れ込む、という描写ですが、本作ではじわじわと「戦時」が侵食していきます。

 そう、これはどこまでも、単純な日常喜劇が貫かれるはず「だった」物語です。
 長谷川町子が「サザエさん」の連載を始めた頃は、戦後の文化が色濃く残っていたわけです。もし、サザエさんの連載が戦前から始まっていたならば、この作品と同じ感覚で、世田谷から見た東京大空襲を描写したであろうことは想像に難くありません。そして2016年には最新家電をやっぱり使っていることでしょう。

 先の大戦時の話をする際に気をつけたいのは、ライフラインが普通に生きていた事実です。
 たとえば、都電を含めた鉄道は戦争中もずっと動いていました。度重なる空襲で、東京都内の線路は随時壊されていますが、大半は即日、東京大空襲の直後でさえ主要路線は五日程度で復旧したそうです(不要とみなされて廃止済みの路線も多かった=すぐ復旧しないと困る路線だけが残ってたのも事実でしょうが)
 日本中の健康な男性はみんな戦場につれてかれて大半戦死、みたいな「悲劇」に慣れていると、そんな復旧工事のリソースがどこにあったのか、まったくわからないでしょう。

 本作のラストに終戦直後の呉の闇市が描写され、一方で「仁義なき戦い」は呉の闇市がオープニングなので、時間軸がつながっていることも話題になりました。
 時は綿々とつながっています。僕らの今の日常は、紛れもなく過去からずっとつながっています。戦争の最も大きな罪は、「戦前」「戦後」で時代を分断することかもしれません。8000万もの人が生き続けたのに。

 あるいはそれを「功」と呼ぶ人もいるかもしれません。現代が、「軍靴の声が聞こえる」などと形容されるならば、つまり、それが「功」になると思う人たち……この世にある、悪い風習とか悪い景気とか悪い政治家とかを、全部断ち切ってしまえばいいと願う、そういう思想の人が増えるほどにそうなるのではないでしょうか。



 この作品で特筆すべき点は、その日常が、ある一点から「明確に」覆ることです。この一点を境に、戦争の善悪なんて一語たりとも語ってこなかった作品世界が、崩れだします。

 その状況を、すずは、はっきりとこのように表現します。
 左手で描いた絵のように歪んだ世界」だ、と。

 そして本作で最も感動的なシーンは、終戦後にやってきた団欒で、「右手で頭をなでられる幻想」のシーンです。そこから、世界は元に戻るのです。


 で。
 こういう論争をしている人は、そこが「歪んだ世界」であることをちゃんと認識しているのでしょうか。絵物語であるアニメにおいて、絵物語を作ることが日常であるキャラについて、わざわざそのように表現しているのに。
 そこでしか論争できないならば、あなたの認知もまた歪んでいます。自覚されたし。哲さんは北条家を訪れた時点で「歪んで」いて、だから「普通でおってくれ」とすずさんに願うのです。

 当然のことながら、太平洋戦争はその時点でとっくに始まっています。戦争の是非はそれ以前で語られねばなりません。逆に、あのシーンに基づいて戦争の是非を語るのなら、「歪んだ世界」から「何のために我慢してきたんだ!」と、もはや何もかもが手遅れの状況で叫んでしまうすずさんに何らかのシンパシーを感じるのなら、「暴力が自分の目に見えないところにあるのなら、戦争してもいい」と言っているのも同じです。

 僕に言わせれば、本当にこの映画から「反戦」を見出したいのなら、序盤のすずさんの「どこに戦争がおるんじゃろうか」とのどかに言うシーンにこそあるでしょう。すなわち、「ジャーナリズムの不全」です。正しい情報が誰にも届けられない、それが、本来は外交手段であるべき行為を、「歪んだ」悲劇へ導くのではないですか。
 「戦争がどんな悲劇的に終わったか」をとうとうと語る人のどれほどが、「戦争がなぜ始まったか」を説明できるでしょうか(精神論でなく、アメリカとの資源外交の失敗など事実ベースのジャーナリズム視点で)。それが説明できなければ、戦争を止めるなんてできるわけないのに。


 うん……書いてて思うけど、やっぱり「歪んで」いますね。この物語の視点は、そんなとこにはないと誰にもわかるはずだのに、歪ませたとたんに議論百出する。物語がフラットであるがゆえに、それが可能になる。それさえも狙いというならば……。
 つまるところ、みんな片渕須直監督に手玉に取られたってことでさ!
 執念の力作、堪能いたしました
、と言うしかないでしょう。



 能年玲奈ののんびり穏やかな広島弁はパーフェクト。東北弁で一世を風靡した人とは信じがたいくらいすばらしい。出身は兵庫だってマジですか。方言に違和感があったのはお義姉さんの尾身美詞のほう、でもさほど気にならないです。こちらは東京出身、ていうかキャンディーズのミキちゃんの娘さんってやっぱりマジですか。

 能年さんの騒動のせいで、マスコミの宣伝がまるでされないとかいう疑惑が言われてますが(まぁこの話は眉唾ですが)、「君の名は。」の広まりも若年層のSNSが起点なわけで、「口コミ」が今までと違う力を持って今の絶賛につなげていることを、むしろ好意的に見たいところです。

 むしろ心配なのは、マスコミの側だよね。そういえばTPPって、「あらゆる」非関税障壁の撤廃を目的とするんで、もしアメリカも交えて発効したら、その理念からすれば日本のマスコミのクロスオーナーシップも即時解体すべき話になっておかしくないんです。それを考えれば、マスコミ業界は総力でTPP潰しにかかるのが自然なんですけど、その視点で報道してるのを見たことがありません。
 「どこに映画の宣伝があるんじゃろうか」とでも言えばいいのか、そうして都合の悪いことを隠して自分の都合のいいとこだけ見てるうちに、組織全体がのっぴきならない状況に陥って、いずれABCネットワークでサザエさんを放映するような時代になってから、あれ? どこかでたどった道だなぁと懐かしめばいいんじゃないでしょうか。



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2016年11月22日

短評(ガンダムORIGIN4/劇場版暗殺教室)


機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV -運命の前夜-
[65点]
@新宿ピカデリー
 第一章第二章第三章
 全4章が全6章となった結果、今回は、前回の終幕時に「次はシャア・セイラ編最終章」と銘打ったはずなのにセイラが本編に一瞬も出てこない、完全につなぎの章となりました。
 意外にもほぼ偶然であった、シャアとララァ(早見沙織のララァがヨイ!)の出会いイベントが終わると、シャアにすら焦点が合わなくなり、ミノフスキー博士亡命にまつわる初のモビルスーツ戦を中心に、連邦軍とジオン軍のモビルスーツ開発競争や世界情勢を俯瞰していくのが軸。
 それにしても、カイが留年してて実はサイド7の学校でアムロ・フラウらと同じクラスだった、というのはちょっと無理があるんじゃ……。


劇場版暗殺教室 -365日の時間-
[50点]
@新宿バルト9
 テレビアニメシリーズの総集編。
 前半は「渚と業」にフォーカスして、彼ら二人がぶつかるイベント中心(腐女子対応?www)。ただしここで「先生の弱点総集編」をやっておいて、後半は過去編もソコソコに、「ラストバトル全見せ」という意外な泣かせ方向に舵を切ってきました。このまとめ方はアリと思います。
 ただこうして短時間にまとめてしまうと、実写版同様、どうしても「暗殺」寄りになります。僕はこの作品を「教室もの」として評価したいので、物足りなさが残ります。
 ネタコメディでしかないのでたいして面白くないけれど、他の生徒にフォーカスする意味で、掌編「殺せんせークエスト」をもう2話くらいやってほしかった気も。



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2016年11月20日

短評(誰のせいでもない/エブリバディウォンツサム/ジュリエッタ)

 巨匠の新作三連発。しかし今回はいずれもイマイチ。

誰のせいでもない
[50点]
@ヒューマントラストシネマ渋谷
 ヴィム・ヴェンダース監督の新作。
 冬の夜に作家が子供を轢く事故を起こす。それは見ていなかった母親の落ち度でもあった。その後作風が深まり売れっ子へ上昇する作家に対し、母親は心の傷から抜け出せないまま、時間が過ぎていく……。という筋書きで、12年間を描く物語。
 ……が、実質的に物語が動くのは、10年経過してから。そこまではヴェンダース監督流の「積み重ね」フェイズ。ただ自分は、見方が甘かっただけかもしれないけど、その10年目に至ってやっと「主人公が何を表象しているか」がわかりました。そこまでに描かれる2年目6年目に何を積んだのか、もううまく読み解けないのです。
 実はこれ3D映画で(自分が見たのは2D版)、3Dによって主人公の心情を表す新機軸らしいので、3Dならもう少し受け止めやすいのかも?


エブリバディ・ウォンツ・サム!
[55点]
@ヒューマントラストシネマ渋谷
 リチャード・リンクレイター監督の新作は、アカデミー賞にもノミネートされた前作を撮り上げたご褒美的な意味合いなのか、監督自身の自叙伝的作品だという、80年代ノスタルジー。
 いやもう……面白い面白くない以前に、自分がこれまで見た映画で一二を争う「知能指数の低さ」なので……ところどころいいことも言ってるんだけど、全部打ち消す勢いでセックス&ドラッグ&マッスルなアメリカン・バカしかやらないんで……評価しづらい。とりあえずリンクレイター監督の芸風の広さに(これが本性だろう、とはなんとなくわかるんだけど)感服します。
 そういやカリフォルニアではハッパが合法になったそうで……おめでとうございます……。


ジュリエッタ
[40点]
@恵比寿ガーデンシネマ
 ペドロ・アルモドバル監督の新作だけども、登場する人間関係にあまり打たれるものがなくて微妙。ほとんど頭に残りませんでした。女性ならわかるのかな。



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2016年11月17日

コラム


 「この世界の片隅に」は既に見ておりますが、もう一度見る予定があるので、感想はもう少し先で。
 ただ、世間の方々が「衝撃を受けた」部分は、僕は「イノセント・ボイス」ですでにイニシエーション済みなので、「やっと日本でもこういう映画が」、というのが最初の感想。



 タイや香港でもヒットした、というニュースが伝わってきてる「君の名は。」ですが。
 海外版って、「あたし→わたくし→ぼく→おれ」のネタをどう訳してるんでしょうか。すごく気になる。



 こんな記事出てましたが。
 とりあえずインディペンデント界隈は、「理不尽な暴力」「不条理アートな造形」「メンヘラがわめく」あたりを全部禁止してから言えや、と思います。
 おまえらがそういうのでエッジ利かせて満足できても、一般大衆はまるで望んでないんだから。そういうものを作り続けて、「大衆芸能」だった映画をすっかりぶち壊してしまった結果が現状なんでしょうに。
 シネコンの集客力や「君の名は。」みたいな作品が、そうしてできたでかい傷を、今少しずつ癒して、立て直してくれてる過程だと理解すべき。



 大統領選挙に絡む騒ぎに関して慄然とするのは、産業とか経済とか国際関係といった国家の計よりも、PCとか差別とかの「属人的」なことがらが絶対的に優先される、と本気で考えている人が、少なからず存在する、という事実です。
 まさしくグローバリズムの帰結で、「人間関係」より一段上のレイヤーに構築された「国家」という社会共同体が、「むしろ劣るもの」「関心を持つべきでないもの」としてカテゴライズされてしまっているのでしょう。

 若年層のヒラリーへの投票率が高いのは、つまり「そう考える」のが「教育の成果」なのではないか。それがエスタブリッシュメント、だとしたら、もう取り返しがつかないところにきているのかもしれません。

 とりまおまえら「ボーグマン」見れ、てことだ。



ボーグマン(字幕版) -
ボーグマン(字幕版)
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2016年11月11日

ぼくのおじさん

[70点]@新宿バルト9

 わはは。なんだこれ。
 山下敦弘監督による、サザエさんと寅さんとジャック・タチを足してマッシュポテトにしたようなコメディ。いや違うな、そういう既存の作品の枠から妙にズレてて説明が難しいのですが。
 冒頭の小学生同士の会話からして、もう小学生じゃない。こまっしゃくれたとかそういう表現を超えた、ワケわからなさ。何かがおかしな世界が構築されている。

 山下監督はこれまでダメなあんちゃんを多く描いてきましたが、共通して、「そのダメな境遇から抜け出せないor抜け出さない」点を否定する空気が醸成されていました。だから彼らはモヤモヤして生きづらいのだと、表現されていたわけです。
 でも本作はそれが肯定……じゃないな、見た目は現実世界なのに、そういうのの肯定とか否定とか関係なくって、空気中にユーモアとペーソスがゆったりと満ちている、そういう世界。ひたすらくっそ真面目な面構えで、屁理屈と見栄をぶちまけ続ける松田龍平の存在感がいとしくすばらしく、変だけれど確かに「彼がいる世界」なのです。

 北杜夫の原作の力が大きい、といやそれまでなんだけど、それでも、具象化されると「なんだこの異世界は!」とのけぞるしかないのですわ。ワオ!


 惜しむらくは、物語後半ハワイへ行ってしまうと、リアルで異世界なのでそのキテレツな異世界感が薄れて大幅にパワーダウンします。それになぜあのシナリオで、「大ムカデに出くわす」というシーンが存在しないのでしょうか。

 いずれにせよ、この話は日常の範疇だけでやったほうが、おじさんのキャラが際立つので、その方向でシリーズ化していただけないでしょうか。とりあえず次のマドンナ役は戸田恵梨香先生で。子役を代替わりさせてくのが大変そうだけど、うまくやれば寅さんに比肩しうるかも?



ぼくのおじさん (新潮文庫) -
ぼくのおじさん (新潮文庫)
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2016年11月09日

短評(マジェプリ/ソーセージパーティ/カラフル忍者いろまき)


 トランプ大統領か!
 これで、グローバリストどもの息の根がとまるといいんだけどね。
 開票結果を郡レベルで見ると、日本以上に、地方が疲弊して立ち行かない状況が見えます。きれいごとやポリティカルコレクトネスじゃ腹は膨れない、っていうただそれだけの結果なのだと思います。


劇場版マジェスティックプリンス -覚醒の遺伝子-
[70点]
@TOHOシネマズ川崎
 意外と面白かったです。
 ストーリー的には完全にテレビシリーズのオマケで、実につまらないです。ただし、たぶん2期の企画自体がポシャって、そこでやるはずだった設定やマシンのネタは全部押し込んだという体裁。
 結果的にものすごく濃厚な一本に。ロボットものなのに緩いコメディ路線だった本作が、圧縮して一気に放出するとここまでノリノリになるのか、と。「君の名は。」のごとく、テンポの良さは百難隠すのです。
 執拗に繰り返されるケーキネタ、キレまくるアンジュの罵詈雑言、この作品のウリであるハイスピードCG戦闘もキレッキレで、マジでこっちをMX4Dで見たかったよ。

 ただ、最近増えてきてるんだけど、入場者特典にボイスドラマつけるのやめようよ。余韻が台無しになるから。つけるんならCD配る方向でよろしく。



ソーセージ・パーティ
[70点]
@TOHOシネマズ六本木
 ソーセージが主人公、ホットドッグ用のバンズがヒロイン、この両名が「合体」したがるエロお下劣CGムービー……のはずなんだけど、想像よりはエロ度低くてわりとまじめ。
 というのは、舞台は何でも売ってるスーパーマーケットで、さまざまな食材の存在がすなわち「世界の縮図・人種の坩堝」になっているのですな。はじめは、あらゆるキャラの価値観が違って罵り合っている(仲間になるキャラの一人が、72人のエキストラバージンオイルに浸されることを望む薄焼きパン、という時点でもうね)。
 
 さらには「人間=神」だと思っていて、「買われる=楽園へ連れてってもらえる」と信じていたのだけれど、実は「食われる=虐殺される」と知った食材たちが、価値観の違いを乗り越え一致団結して「神」に反逆を起こす……という筋書き。R15になってるのは、エロよりも「虐殺」のほうだと思います。宗教モノとしてもかなりヤバいとこに突っ込んでる。
 ちなみに、この作品でいちばんエロいのは、包丁を振り回してキャラを虐殺していく「神様」の造形です。悪役のビデの気持ちがよくわかる、あれは突っ込みたい。

 ただ、ラストのオチはちょっと好かない。彼らあのままだといずれ腐るわけだけど、その辻褄あわせから逃げた感じしかしません。



カラフル忍者いろまき
[65点]
@下北沢トリウッド
 今年は一般公開がなかった「アニメミライ」(でいいんだよね? 自分、情報を入手し損ねた?)のうちの一本が単発公開。ラーメンズの小林賢太郎監督・脚本なのがウリ……だけど、ミニンジャとどっちが先かと思うネタやストーリーよりも、NHKアニメかあるいはクレヨンしんちゃんぽい、デフォルメアニメーションのキレのよさを堪能する作品になってます。
 母親役が水野理沙。まだ声優やってたんだ……。



劇場版マジェスティックプリンス 覚醒の遺伝子 Blu-ray(初回生産限定版) -
劇場版マジェスティックプリンス 覚醒の遺伝子 Blu-ray(初回生産限定版)
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2016年11月05日

カゲロウデイズ -in a day's-

[25点]@TOHOシネマズ川崎

 よっしゃ来たぁ!
 この、映画大豊作の、2016年において!

 ぶっちぎりのワースト orz



 「世界初のMX4D専用新作アニメーション」
 とだけ聞くと、なんかすごそうな気がするじゃない? 自分、MX4D未経験だし、これを機に試してみようか、と思ってもムリないじゃない? TOHOシネマズも、こういう時間調整に使えそうな短編MX4Dコンテンツが欲しかったのだろうし、それなりに期待かけてそうな気がするじゃない?


 でもさ。さんざん悩んだ。見るかどうか。

 題材がよりによってカゲロウプロジェクト。
 ニコニコ動画で一世を風靡し、小説・マンガ等に少しずつ設定を変えて手を広げるも、時宜を逸したテレビアニメ化が極まりついた駄作で、たちどころにオワコン化したコンテンツ。の、さらに時宜を逸した映画化。

 当時ボカロにはまってたから曲はほぼ全部知ってるし(「サマータイムレコード」は今でもサビを口ずさむ名曲だ)、テレビシリーズは全部見た。過去エネのエピソードはマジ泣きモンだった。その上で言っている。念のため。
 なお、自分の認識では、カゲロウプロジェクト全体における「最人気キャラクターはアヤノ」なのだが、本作においては過去時間軸には一切入らず回想シーンもない。したがってアヤノはまったく登場しないので注意されたし。

 監督はニコニコで各曲のPVを作ってたしづ、要するにPV止まりの人でアニメ作家としての実績は皆無。普通に考えて期待より心配の方が大きい。つーか脚本もなの?! そこは嘘でもじんって入れとけよ!
 予告編はいっさい目を引くところなし。中身のないサイドストーリーでしかないことをごまかしてるの丸わかり(実際にはテレビシリーズ序盤の焼き直しだった。「それができる」のがこの作品世界の特色とはいえ、別に面白さが増すわけはない)。
 そもそも、この作品のキャラクター群は、「視線で他人を操る」能力者なので、絵的には絶対に派手にならない。そのうえMX4D向けのアトラクションに? 無茶な!

 とどめが「20分で1900円」(1500円+3Dメガネ代)
 ……この作品って、ファン層の中心、中高生かそれ以下なんですけど。
 出せと。この額を。信じらんねぇ。

 オレ同日に上映時間79分のマジェプリも見たから、正規料金だと100分以下で3700円という、一日中居座っても800円だった新橋文化劇場ユーザとしては鼻血が出るコスパに、くらくらしたよ!



 そんなわけで、1900円と時間をムダにしてよいものかさんざん悩んだあげく、最終的に「悩むくらいならトライすべき」という判断に従った。
 そして見た。後悔はない。後悔してないから dis るくらいは許せ。

 まず第一に、本作を見るなら、内容をどう受容するかによらず、映画館においては最悪といえる体験を共通して味わうことになるので覚悟して欲しい。
 なんとなれば、山崎紘菜&予告編はキッチリあり、MX4D向け諸注意とデモも流れるから、ガチで「関係ない映像を見せられる時間のほうが本編よりも長い」という本末転倒がそこにあるのだ。



 で。中身はもはやMX4D以前の問題で、どうしようもなかった。

 絵。
 なんだこのテレビシリーズのまんまの線ふっとい作画クオリティ! これ、映画館で流すつもりで作ってねぇだろ!
 時宜を逸していることといい、どうやって売ろうか、企画が迷走に迷走を重ねたのだろうと察する。どうにかしてつけた「付加価値」が、MX4Dだったと。了解。

 あと、「3Dである理由」はホントにひとっかけらもなかった。せめて、3Dメガネ代を観客全員に返却する誠意を求めたい。



 ストーリー。
 当然ながら、各キャラの説明なんてものは皆無のまま、事件に突っ込んでいく。もともとカゲロウプロジェクトに触れているファンのための作品だ。それも生半可では足りぬ。
 プロジェクト全体の傾向として、もとより「能力者もの」としてはグダグダである。というか、彼らにとって基本的に能力はコンプレックスで、積極的に使わないものだ。繊細なキャラづけこそが命と言っていい。「誰がどんな能力を持ってるか」なんて、わかってなくても楽しめる。
 なのに本作は、「各自の能力を駆使して切り抜ける」というプロット
であり、見てる側が「誰がどんな行動原則を持ち、どんな能力を持っているか、説明しなくても完全に理解しているファンである」という前提で作られている。

 はっきり言って、誰が何をやっているのかよくわからなかった。
 MX4Dのエフェクトを借りてさえ、「特殊能力を使い、その効果が現れた」と明確に表現し切れているのは、マリーの石化と、人間じゃないコノハの身体能力くらいじゃなかったろうか。
 それ以前の問題として、なぜその人物がその行動に出るのか、彼らの意志や認識の程度も、俯瞰的な状況説明も一切表現されない。とにかくキャラが動くだけだ。

 そんで、物語のオチが、「キドと敵の主犯が入れ替わっていた」というものなのだが、……。
 登場人物にとっても観客にとっても、「『敵の主犯』なるものを意識する必要性がまったくない」というオハナシでね。主犯がいようがいまいが、シンタローがエネを管理室とやらに連れていけば、事態は収束する。
 そのうえ、ただでさえキャラデザの見分けがつけにくく、やっぱり「性格」こそがキャラの差異として重要であるべきなのに、「見た目似てる人が実は入れ替わってました」といわれても、「そんなの気にして見てる奴いねぇよ」としか言いようがない。
 「誰が何をやってるかよくわからない」は、この敵さんにも当てはまる話だったという。

 本作で唯一褒められるところは、20分という時間制約上、1イベントを、起きてから終わるまで一気に描き切ることだけに徹していて、ダレる部分はさすがになかった、という点である。



 そして、ビックリしたのは音楽。
 「君の名は。」で、「前前前世」の軽快なノリに合わせて、入れ替わり現象がザクザク説明されていく流れは実に興奮したものだ。
 なのに、そもそも「歌」が底流にあるはずのこの作品が、その手法を使わない!
 IA使えとは言わないが、歌に合わせてアクションするシーンが当然あるだろうと。そして、音楽PVの体裁に近づけ、3曲くらいは流して、疑似的な音楽ライブ感を出すのが、MX4Dを採用した目的だろうと、勝手に思っていた。
 なのに、歌が流れたのはエンドロールだけだった(曲をアレンジしたBGMはあった)。……しづを監督にしたのはなんのためだったんだ……単なる名義貸しか……。



 いちおうMX4Dにも触れておくと、この作品ではそれくらいしかやることがないとはいえ、たかが「人が移動する」くらいで席を揺らされると、むしろ想像力が阻害されるようでうっとうしく思える。今の観客はそういうのを求めているのだろうか。
 ……これはさすがに、「イマドキの若者は」的な言いがかりかもしれないけど。

 ただ、「ガラスを割って破片が飛び散る」「何かをぶちまける」シーンでミストが吹き出すのってMX4Dではデフォなの? あれを筆頭に、なんか、ちょっと、いろいろ間違ってる感じが強くて、アトラクションの楽しさはまったく感じなかった。
 そんでエンドロールで歌が流れ出すと、バスドラに合わせて?いちいちケツを突き上げてくる振動入れるのやめれ。



 これくらいかな。とりあえず、これが興行側の目指すところというなら、もうMX4Dはこりごりだ。二度と行かない。
 1900円はそれを知るための勉強代であり、TOHOシネマズはこの作品で、将来有望な顧客層となってくれるべき中高生を中心に、MX4Dの観客をがっつりと減らしたものと確信する。

 何しろ。
 MX4Dの威力が存分に活かせそうな、大爆発! のシーン直前で突然ブッタ切り!
 画面に燦然と輝く「To be Continued」の文字!
 ……コンコルド効果って奴ですか。誰か止めてあげてー!



メカクシティレコーズ - じん
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posted by アッシュ at 21:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする